ビデオジャーナル54

佐野元春の「ザ・ソングライターズ」という番組が面白い。
http://www.nhk.or.jp/songs/song-w/
「ザ・ソングライターズ」とはサイトの説明にあるとおり、『シンガーソングライターの佐野元春さんがホスト役を務め、日本のソングライターたちをゲストに招いて、「歌詞」すなわち音楽における言葉をテーマに探求してゆく番組』なのだが、とにかく佐野元春のホストぶりがステキ。
だいたいこういった企画はトーク番組的な性格を帯びるので、ゲストの発したコネタに食いついたりリアクションしたり、適度にボケたりつっこんだりしてテレビ的に盛り上げるのが普通だろうし、この番組の依頼を受けたときにゲストの面々もいくらかそのあたりのことは考えるだろう。
しかし、そういったテレビショー的な演出はまったく無く、ここにはただ「詞」、「言葉」というものに真摯に向き合うクリエイター同士のむき出しの対話があるだけ。佐野元春はあくまでまっすぐに真摯に「創作」というものに向き合い、テレビタレント的な振る舞いはしない。二回目のゲスト、さだまさしをして「ひとつ心配なのはさ、佐野君が天然なんだよね。ボケでも突っ込んでくれなさそうだからまじめにやる。」と言わしめた。茶化さない。媚びない。生半可にギャグを言ったって、佐野元春は拾わない。けど、どんな答えも受け止める。答えを出すまできちんと待つ。間が空いても適当に埋めようとしない。ゲストも真摯に言葉の世界に向き合わざるを得ない。
結果、珠玉のような言葉がいくつも得られ、その後の学生達とのワークショップでは、言葉が音楽として立ち上がる瞬間を何度も体感し、トリハダが立つ思いをすることとなる。

さて、佐野元春という人、80年代には大人気を誇ったミュージシャンであったが、私はあまり好きではなかった。なんかキザったらしいというか、鼻につく感じがしたのだ。スノッブでちょっとカッコよすぎるよ。人間ってもうちょっとカッコわるいんじゃないの?てなくらいに思ってて、もっとヘンテコなニューウェーブ系の音ばかり追いかけていてた。けれど、この番組を見てひさびさに彼に再会し、そのあまりの変わらなさに逆にガーン!と「あ、けっこう好きかも。」の方に気持ちが傾いてしまった。この一貫したブレの無さ。あいかわらずキザでスカシてて、でもマジメで真摯だ。ホンモノだったんだわ、この人。
むかしはこの、マジメさと真摯さが受け付けられなかった私。やっぱ軽薄短小の80年代ですからね。マジメかっこ悪い。テキトーに楽に生きるのがカッコイイ、という時代。
しかし2010年、このなんとも足場のぐらぐらした時代にあらためて見ると、この直線的な視線はむしろ魅力的。その迷いの無さに唸ってしまう。
Twitterしながらこの番組を見ていたとき、誰かが「こういう風にマジメに語り合うことも必要なのかもしれない、照れずに。」とTweetした。
「照れずに」・・・・これは案外、今の時代のキーワードかもしれない。照れず、茶化さず、語り合うこと。そこから生まれるもの、そこで救われるもの、少なく無いんじゃないか、とそんな予感がしている。
フマジメな時代は終ったんだぜ、ベイベー!と佐野元春風に叫んでみたい。

この番組のページに佐野元春が1995年に書いたソングライティングについての小論文があったのでリンクしとく。
「流行歌は人の心の最大公約数」と考えたことが私にもあったんだが、それとちょっと似ているところがあって驚いた。
http://www.moto.co.jp/songwriters/HL_letter.html

そんなわけで佐野元春というと「ケッ・・・。」と思っていた若き日のワタクシ、いま彼の曲を聴くとしみじみわかることが多い。「SOMEDAY」なんてベスト10にも入るくらい売れたのでのでさんざん聴いていたはずだけど、今やっと深く深くわかる歌詞がある。「窓辺にもたれ夢のひとつひとつを消してゆくのは辛いけど、若すぎて何だかわからなかったことがリアルに感じてしまうこの頃さ」なんて、中学・高校のころは引っかかりもしなかった歌詞だもんねぇ。「いつかは誰でも愛の謎が解けて、一人きりじゃいられなくなる。」なんてのも、大人になってからだとピンと来る。私はいまだに謎が解けないが。


わが敬愛する山田晃士アニキも佐野さんをお好きらしく、ワンマンライブでときどきこの曲のカバーなんぞされるらしい。うわ、聴いてみたい!番組の中でもスガシカオさんが「好きなラブソング」として挙げていた。スガさんが歌っても似合いそう。

佐野元春」的なものを避け続けていた私の青春ではあったが、一曲だけ好きな曲があった。高校の頃、はまっていた自主制作アニメーションの上映会でこの曲を使った作品を観たからなんだけど。ちなみに歌詞は一言も聞き取れていなかった。洋楽聴くのと同じ感覚。

佐野元春の「ザ・ソングライターズ」は好評だったので、この夏に第二シーズンが放送予定だそうである。やっぱ、ねえ、おもしろかったもん。
テレビってナニゲに様式化しているから、お約束以外の答えを引き出せる番組に心ある視聴者は飢えている。
佐野元春佐野元春であるからこそでき得る番組。第二シーズンも楽しみである。