バカウマロックふたたび

ライブ、といってもローランド・サウンドスパークというイベントの一環で、正味なところはデモ演奏なのだが、それゆえ無料。寡作ならぬ寡ライブの人、三柴理氏のひさびさの生のお姿が拝めるということで、滅多に行かない渋谷までいそいそ。会場はO-East。オールスタンディングでございます。前の出番の人のライブの時間、待ち時間含めて4時間立ちっぱなし。ミドル女子にはやや辛し・・・。
三柴理ワンマンではなく、バンド構成。メンバーは以下の通り。それぞれロック界では超絶技巧で知られる面々である。
ギター 横関 敦
キーボード 三柴 理
ドラム そうる透
ベース 関 雅夫
三柴さんと横関さんは1988年に筋肉少女帯のアルバムのレコーディングで出会い、その後横関さんのソロアルバムの製作のときにそうる透関雅夫の二人が加わって、「バカウマロック」でレコーディングとツアーが行われたのが1989年。それ以来はこのメンツでの活動は無かったそうなので、まさに20年ぶりの復活ライブである。私は筋肉少女帯ファンだったため三柴さんだけは知っていたが、他はまったく知らず。どうしてもロックバンドはボーカルのキャラありきになってしまうので、自分が楽器でもやっていない限り、バックのメンバーは目に入らなかったりするんだよね。とくに女子の場合、ルックスに左右されたりするんでねー。だから「バカウマロック」も三柴さん以外のメンバーも知らなかったのだが、この日偶然(というか会うべくしてというか)会場でばったり会った「あ」さんは20年前のライブも観ていて、こんな機会はのがしてはならぬ!と仕事を抜け出して駆けつけたと言っていた。思い入れがある人にはかなり、見逃せない大イベントだったらしい。
会場に入るとけっこうな人ごみ。年代が若いなぁ、と思ったら、バカウマロックの前に急きょ演ることになったルナシーのギタリストSUGIZOの演奏がなかなか始まらず、時間が押していたのであった。結局30分押しで始まった彼のステージも意外と興味深くて、楽しめた。30分まるまる使ってのサイケデリックな1曲。エフェクターやローランドの電子楽器を駆使しての音空間。ああいう長い曲ってインプロなのかな?曲想は徐々に変わっていく感じで、いつのまにかぜんぜん違うリズムになっていたり。サイケっぽいインプロってシラフで観てると飽きてしまいがちなのだが、これは飽きさせなかったねぇ。ちょっと拾い物。
そして一時間押しでやっと、やっと始まった「バカウマロック」。会場からは「エディー!」と歓声があがる。この歓声、会場に男子が多目のため「エ゛ディ゛ー!」って感じの響きです。とにかく男性ファン、多いんだよね。それは各メンバーの「巧さの証明」に違いない。
セットリストはたぶん、以下
VIOLENT WAVES OF DINOSAURS ・SEA OF JOY・SKY CONQUERS・夜歩く・THE VICTIM OF STRONG ・サンフランシスコ・THE DESIRE
「夜歩く」「サンフランシスコ」以外は横関さんの曲なので私はしらなかったが、どの曲も意外と明るく希望を感じさせるもので、プログレ的な重さや暗さは無かったな。ちょうどこんな感じの曲が主体。

曲の明るさと安定したテクニックのため、私にはちょっとフュージョンぽく聞こえてしまう一瞬もあった。けど、安定感をときどきギターとキーボードのバトルがハデに崩してくれたりするところがあったりして、ロック魂を感じた。どっか過剰な部分がなきゃロックじゃないもん。三柴さんも他のメンバーも終始楽しそうに演奏していた。MCでも言っていたがこのメンバーで演奏できるのが嬉しくてたまらないそうだ。「あ」さんによれば、「20年前よりみんなうまくなってた。演奏がよくなっていた。」とのこと。20年前は巧かったけど、もう少しバラバラな印象だったのだそうだ。この日は巧い上に、演奏としても息が合っていて、とてもよかったらしい。20年前ってみんな20代。やっぱ「オレがオレが」になりやすかったのでしょうかね?いつしか「オレの演奏を聴かせてやろう」ではなく「いい演奏を作り上げよう」という気持ちに成長したのか。ミュージシャンとして大人になったっていうことかなー。
で、あくまでデモ演奏のため、演奏している楽器はローランドの新製品。MCでは機材の紹介もあったりする。三柴さんの3つのキーボードのうちのひとつ、電子ピアノは「ありえないピアノの音」がするそうな。ピアノの中の弦というのは低い音になると銅線が巻いてあり、柔らかい音になるようになっているのだそうだが、この電子ピアノはその銅線を巻いていない状態の音というのが出せるとのこと。それは生ピアノはではありえないのだそうだ。ふむふむ。
筋肉少女帯の曲だった「夜歩く」「サンフランシスコ」も、インストとして聴いてみると、ピアノがものすごいテクニックなのがわかる。楽器を叩き壊しそうかと思えば、か細い音色が消え入る最後の響きまで大切にする、豪快さと繊細さが同居する絶品の三柴プレイを堪能。これで無料なんて、ローランドさん、ありがとう!という気持ちで興奮したまま会場を後にしたのであった。
あ、今回感動したのは演奏もそうだけど、ステージの後ろにあった大スクリーン。デモという性格上、今まさに演奏しているプレイヤーの手元や楽器、機材のスイッチの状態などを見せるために臨機応変にリアルタイムで映し出していたのだが、その当意即妙な動き、ピタリピタリときまる構図とピントに感心した。リハをしっかりやってるんだろうけど、ぬるい仕事してないとこがいいねー。あと、スクリーンの液晶の精度がとてもよいため、演奏者の足元のセットリストの文字がはっきり読めてしまって、あと何曲やるかわかってしまったのが可笑しかったわ。

と、みんなが三柴さんのことを知ってる前提で書いてしまったけど、ここ読んでる人の半分くらいは知らないと思われるので、どんな人かな?って思った人はこのインタビューを読んで下さい。エディのキュートな人柄も伝わると思います。演奏はド迫力で強そうなのに、本人は天然で素直な音楽好き青年で、基本的にジェントルマンだし、なんかもー、愛しくなってしまうのだ。
http://www.mc-club.ne.jp/interview/mishiba_satoshi/body_1.html

このインタビューの中に私がとても好きなくだりがある。それがこれ↓
<バンドを始めた最初の頃の練習はどんなものでしたか?>
「クラシックピアノをやってきた人って、自分のリズムしかないんですよ。自分の中のテンポで演奏しがちなので、リズムに合わせて演奏するという感覚がないんですよね。だからそれを克服するために機械のリズムに合わせて背中を叩いてもらって練習したりしましたよ。最初はテンポ40位から始めて…(テンポ40って物凄く遅いんですよ! )そこからだんだんテンポを速めて練習しました。」
見よ、この謙虚で努力家な側面を。ここに才能を併せ持っているのだから、アーティストとして怖いものなし。この他にも以前、黒田亜樹さんのライブに出たときに、普段はどんな練習をしているか聞かれて、「まず右手だけの練習、左手だけの練習、両手の練習というような準備運動的な練習を2時間やった後に曲の練習を始める。」ってことも言っていた。練習法聞かれて、具体的に答えられるってすごいと思う。スポーツ選手みたい。実際やってないと言えないことだ。どれだけ感性が鋭かろうが、理論的に優れていようが、手が動かないと話になんない。それが音楽ってものの残酷さ。あと、「暑いときはパンツいっちょで練習してます。」とも言ってたな・・・。

オマケ「サンフランシスコ」・・・わりと最近の映像なので、筋少の再結成ライブ以降かな?