御喜美江ファミリーコンサート「アコーディオンの玉手箱」

今年のライブ初めは御喜美江さんでした。
アコーディオンという楽器がマイナーな上に、クラシックアコーディオンとなるとさらにマイナー・・・。
そんな世界に16歳の若さで飛び込みン十年、小柄な体と女の細腕で日本のクラシックアコーディオン界を牽引していらっしゃるスゴイ人だ。クラシックアコのマイナーさは相変わらずだけれど、ドイツの大学で教鞭をとる彼女の元で学んだ教え子たちが少しづつ日本国内でも羽ばたき始め、アコーディオンと他の楽器とのアンサンブルなどの意欲的な公演も、よーーーーく注意して情報収集していれば目に入ってくるハズ。
この日は世田谷区の何かの後援があったため、通常のコンサートホールでは5000円超の美江さんのコンサートがなんと1,500円。これは行かねばならないでしょう。ということで、出かけたのは玉川区民会館。かなり古い建物で、インテリアは意図されざるミッドセンチュリー・・・。ファミリーコンサートなので子供は1,000円と安く、親子連れもけっこういたが、年配の女性客がかなりの比率を占めていた。私はアコーディオンの先生とばったり会ってしまい、別に後ろめたいことも無いのにアセりまくり。なんで外で先生や上司に会うとあせってしまうんだろうか。
時間前に主催者の挨拶がちょっとあり、美江さんの登場。裾のたっぷりしたロングドレスにGORAというクラシックアコーディオンの最高級機を携えての登場。GORAは14kgあるフリーベースの重量機。噂によれば500万するとかしないとか。シングルトーンの細い音が消えそうで消えずに鳴り続けたかと思えば、飛行機が離陸するようなブゥーンという激しい振動音のような音も出たりする。

プログラムは以下の通り。
これ、アコーディオンだからできるんだろうなあ。他の楽器で単品で、ピアソラ・バッハ・林光・ジョンゾーンが同居するのって。演奏はできても、聴いてるほうが飽きないカラフルな演奏は難しいと思う。アコーディオンには「必殺!音色スイッチ」があるのでいろんな音色がでるし、演奏中に伸びたり縮んだりとビジュアル的にも表情豊か。叩けば打楽器にもなる。そうそう、ほんとにアコーディオンを叩くという奏法はあるんですよ。(逆にそういうところがあるから、楽器の中ではイロモノ的立場に置かれちゃうんだろうけど。)今回はフルートとのデュオもあったけど、3分の2は独奏だった。

グリーク:叙情小曲集よりワルツほか
モーツァルト:5つのコントルダンスより3曲
バッハ アンナマグダレーナの音楽帖
ラモー:めんどり
ジョン・ゾーンロードランナー
JOHANN SEBASTIAN2・蜜蜂は海峡を渡る
林光:裸の島・フルートとアコーディオンのためのファンタジア
ピアソラ:白い自転車 リベルタンゴ
アンコール バッハ:主よ、人の望みの喜びよ−カンタータ147番より

ときどきちょっとしたおしゃべりや、共演者、作曲者へのインタビューなどを美江さん自身が行いながらコンサートは進む。美江さんはどちらかというと自然体、天然系の人で話し方などフワッとした雰囲気で優しく、ユーモラス。おっとりしてて、アーティスト特有のエキセントリックなところが微塵も無い。インタビューでも音楽に関係ないことをいきなり聞いたり(スポーツはなさいますか?とか。)それでカクッとなってる林光さんやフルートの荒川洋さんがおかしかった。

さて、このコンサートを観にいきたいとおもった理由のひとつに曲目に「ロードランナー」があったというのがある。ジョンゾーンという人の作曲なのだが、このジョンゾーン、知る人ぞ知る奇人ミュージシャンであり、奇妙で多作という部分ではフランクザッパと張るかもしれない、そんな存在なので、この「ファミリーコンサート」と銘打たれたプログラムの中に入っているのが不思議に思えたのだ。(第一、ジョンゾーンのCDなんかCDショップで手にとって御覧なさい!目を背けたくなるような残虐な写真がジャケ写だったりするんだから!)で、事前に調査しました。どんな曲なんだろう?と。
こんな曲でした。

最初聞いたときはわけが解からずコワイ感じに思えたけど、要するにアニメ「ロードランナー」のサウンドトラック部分をひとつの音楽と解釈して作られているようだ。アニメの画面を消して音だけ聞いていると、なるほど確かにこんな感じかも。そう理解すればなんか、楽しい音楽に思えてきた。美江さんも「音楽マンガです」と言っていた。こんな曲なのでぜんぶ即興なのかしら、と思っていたらさにあらず、美江さんは楽譜を床に広げ、この動画の人とほぼ同じように演奏し、まったく同じように曲が終わった。曲が入る部分には違う曲が入っていたりしたが、効果音が入るタイミング、曲の切り替わりのタイミング、ほとんど同じだった。再現性のある音楽に思えなかったので、驚いた。クラシックとは、ジャズではないのだ、とあらためて気づく。基本的には譜面どおりに演奏するのがクラシック。演奏に違いが出てくるとすれば、それは解釈の違いによる。アドリブ、即興は基本的に無いのだ。そーいう目で見ると、「現代曲のクラシック」っていうのが面白く思えてきた。メロディを耳で覚えてなんとなく弾ける曲とは違う。でも、譜面をもとにぜんぜん別の人が演奏を再現できる面白さ。

こんなハチャメチャがあったと思えば、メロディアスで静謐な「裸の島」、力技でない繊細なリベルタンゴ、かわいらしく弾む「めんどり」、ドラマチックな「蜜蜂」など、様々な表情を見せて、コンサートは終わった。ちょっとホールの音響と暖房に問題ありな感じはあったが、この内容には大満足。今年はもっとがんばるぞ、アコーディオン。と思いながら帰途に着いた私だった。
今回のプログラム、ファミリーコンサートとはいえ子供にまったく迎合していなかったので難しかったかもしれないが、ここで何かを感じることができた子供は将来有望にちがいない!上質なコンサートでした。

もう1人みつけた「ロードランナー」の演奏。うーむ、ほんとに譜面、どうなってんだろうか?