ちょっとだけまとめがき10月

この週末も仕事だったりで、またバタバタしてると忘れちゃうから走り書きしとく。
今も背後で洗濯機が回転中。なんか、いっそがしーんだよね、毎日。なんで?
笑福亭福笑瀧川鯉昇 二人会>
面白い!と思える落語家さんをどうやって探したらよいのかわからない。以前はよく寄席に足を運んでいたので、そこで見つけて後を追跡するというパターンがあったんだけど、ここ1,2年どーしても寄席に行く時間がほとんど捻出できずに過ぎてしまい、こっち方面意外とごぶさたなのだ。だから、こんな風にご招待券をいただいたり、「このヒトはいいよ。」って教えてもらったりするのはほんとにありがたい。今回の鯉昇さんはノーチェックだったので、さらにありがたい。
笑福亭福笑「代書屋」
瀧川鯉昇「二番煎じ」
(仲入)
瀧川鯉昇「うなぎや」
笑福亭福笑「釣道入門」
アクションも声も大きく、人物のデフォルメが極端な福笑さん。そりゃ反則でしょ、というちょっぴりお下品なマクラで一気にお客と身内っぽい雰囲気に。勝手口からどかどか入り込んできて、いきなり喋り散らす近所のおっさんみたい。「代書屋」も「釣道入門」も登場人物は二人。クールなキャラの方がアホキャラに影響されてだんだん崩壊していくという似たような構造の物語だが、壊れ方が爽快です。あと、上方落語にでてくるボケとツッコミの感じって好きだな。ボケのほうが、わかってても敢えてボケ倒してツッコミのヒトとじゃれあってるような雰囲気があって、東京の落語だとそれはあんまり感じないところだったりする。
対する鯉昇さん。出方も語り口も正統派。古典をいたずらに崩さず、古典のテキストそのまま演じているだけなのに、ものすんごく面白い。人物の描き分けだって、敢えておおげさに演ってるところはないのに微妙に違っていて、役人が肉を食べる様子なんかいかにも役人で、それがわざとらしくなくあざとくなく。肚の中にその人物達が生きて動いてるとしか思えない。スーパーナチュラルだー。あと、出てきて一度お辞儀をした後に、しばらく無言で客席を見回して、笑顔ともあきれた顔とも照れた顔ともとれる表情をするのだが、このときの「てれっ」「ふにゃっ」とした感じがいいなあ。このとき、客席が一気に弛緩するんだよね。これがたまらん。福笑さんが「勝手口のご近所オヤジ」なら、鯉昇さんは表玄関からきちんと入ってきて、応接間でお茶を飲みながらトツトツと面白い話をしてくれる親戚のおじさん。

柴草玲ワンマンライブ@西荻窪サンジャック>
西荻窪の小さなビストロで行われた柴草玲さんのワンマンライブ。ほんとうに小さな店で、お店のスペースの半分をグランドピアノが占めている。のこりの半分に30人分の席がぎっしりと。受付を済ませてドリンクを注文すると、サービスで渡された小さなサンドイッチが仕事帰り直行だったお腹に嬉しい。
玲さんファンは律儀な方が多いのか、開演は19:30からなのに開場の18:30にはほとんど全員来ていた。完全予約制なのにこれにはびっくり。
さて、時間になって玲さんはどこから出てくるのかな?と思いきや、お店の入り口がガラガラと力なく開いて、まるでお客さんのように入ってきた。緑のベレーにチェックのスカート。オリーブ少女的スタイルは玲さん本来のファッション。最近、何かのキャラになりきってのステージが続いていだが、この日はひさびさの「素」の状態でのライブだそうで、サングラスをはずす勇気が出ないとのことで、かけっぱなしで唄い始める「しもつかれ」。小さな店内が、あっというまにしなやかで力強いピアノの音に満たされる。
しもつかれ」は栃木県の郷土料理だが、あえて味に言及せず素材の名前を並べ、「ばあちゃんの意地、じいちゃんの技、父ちゃんのウソ、母ちゃんの涙・・・」と続ける歌詞にエスプリが利いている。「しもつかれ」に限らない郷土料理という存在の持つ光と影を見事に唄いこんでいる・・・と、ついつい深読み。
遠距離恋愛を唄う「PS」、ミステリアスな男女の唄「ヒガンバナ」の後、近所のラーメン屋で見た客と店員の攻防を演歌っぽく唄う「どっちがショボいかな」、病院の待合室での老女と受付の人の押し問答をドラマチックなピアノで綴る「クリニック」とシームレスに続く。
このシリアスとコミカルの境目のない感じが、柴草玲さんの持ち味。恋愛の唄もときのネタっぽい唄のときも、別に何も切り替わらない。常に柴草玲柴草玲のままである。ことさらにオーバーに押したり引いたりしない。客と妙な駆け引きをしない。
第一部の最後は「あんたの冷や汁」。世良正則「あんたのバラード」に捧げるオマージュ。畳の上で、男の作った冷や汁を思い出しながら弱っていく女。愛と憎しみは単純に裏表ではないんだな、と感じさせる柴草玲流のブルースだ。
第二部も同様、コミカル、シリアスをランダムに、まるで思いつくままに弾いているように。
新曲「たたみちゃんのテーマNo5」はコミカル自嘲ソング。「たたみちゃん」というのは玲さんが自分につけている愛称で、畳の上でうたた寝すると、顔に跡がついてなかなか取れないのを自嘲的に呼んだのが発端らしいです。歌詞は玲さんのBLOGで確認してください。「よんじゅっさいのおんなのこ」という歌詞が深い・・・。玲さんは自分のことを「熟女」ならぬ「熟乙女」と表現されるのですが、乙女だから傷つくわけです。自分の年齢にも、せまりくる老いにも。
ロマンチックな「7月5日、月食」、失恋の唄かな?「レクイエム」と自然に流れて、ラストは待ってました!「さげまんのタンゴ」。自分のさげまんぶりをアコーディオンで弾き語る玲さんのライブではおなじみの曲。途中に入るセリフが毎回違うのだが、今回は
「最近、さげまん力を遠隔操作できるようになってしまったようです。愛し合わなくても、リスペクトすると『さがる』のです。世良正則さんごめんなさい。(「あんたの冷や汁」でリスペクトしたら、世良さんが追突事故に遭ってしまったらしい。)」「リスペクトしないと下がらないのです。ああ、ナ○ブチを下げたい。でもナガ○チは愛せない。」などなど。そして、「でも私は待っているのです。白馬に乗った『下がらない男』を。いや、別に白馬に乗っていなくてもいい。」と結ぶ熟乙女心。
アンコールは「ホテルおぎくぼ」「ゴルゴ13のうた」で〆め。
笑っちゃうけど切なくて、乾いているようで意外とウェットなところもあって、まぬけだけど繊細で。そんな多様な要素がぜんぶ1人の女の人に、矛盾無く入っている驚き。柴草玲さん、まったくもって魅力的な表現者であります。