おっ、ぺれった ちょっとノゾいてみてごらん

ことの発端は「笑って笑って笑いまショー」の歓談タイムのときに、好田タクトさんからチラシをもらったことだった。彼がゲスト出演すると言うこのお芝居、チラシにはタイトルとキャストとスタッフと、会場の地図以外の情報は載っておらず、さっぱり正体不明だったが、タクトさんが発した「軽演劇」というキーワードがピキーン!と私の嗅覚に引っかかった。
というわけで、まったく事前の情報なし。「おっ、ぺれった」というのが劇団の名前なのか演目のタイトルなのか、それすらも知らないまま私は新宿はSpaceゼロという小さな劇場に足を運んでいたのでした。
小さな劇場にはお客さんがぎっしり。ここまで来て気がついたのだが、どうやらこの「おっ、ぺれった」・・・根強いファンのいる人気公演だったらしいのである。
「おっ、ぺれった」というのは劇団の名前で、「ちょっとノゾいてみてごらん」というのが劇そのもののタイトルであった。少子化のあおりをうけ、児童が減る一方の都会の小学校の、家族参加型の学芸会にまつわるドタバタ喜劇である。少子高齢化、家族の絆、都会の人口ドーナツ化・・・と、社会派っぽいキーワードを盛り込んではいるが、そこはあえて掘り下げずとことん軽く明るくばかばかしい。だから、最終的に登場人物全員がとてもキュートに見えてくる。とくにアルツハイマーのおじいちゃん!認知症の役の人がこんなに可愛く見えるという衝撃。
前半は学芸会の準備に関わる騒動。自分の子供のために勝手に台本のセリフを書き換えるステージママ&パパ、忙しい両親を気遣い、学芸会の連絡をしない共働き家庭のけなげな息子、その息子がかわいそうなあまり、がんばっちゃうおばあちゃん、派手な服があると反射的に着て外に出て行ってしまうアルツハイマーのおじいちゃん、次々に転校して行ってしまう児童たちにアタマを悩ます校長先生・・・。などなどいろいろあって、第二幕は学芸会のお芝居「桃太郎」がそのままステージで演じられる。それが動きと言いギャグといい完璧なので「なんだ、これで大団円か。案外あっさり終わっちゃうなあ。でも転校していった子供たちも出てきたけど・・・」なんて思っていたら、なんと!それだけでは終わらなかったっていうか、この後からが見せ場だったんです。
完璧に演じられた学芸会の舞台は実は校長先生の夢。実は主役の桃太郎役の児童が行方不明だったり、桃の着ぐるみを勝手におじいちゃんが着て舞台に出ちゃったり、殺陣を受け持つ母親(普段の仕事はデパートの屋上などでヒーローショーをやっていると言う設定)がなかなか来ないと思っていたらお芝居が終わる頃に部下のスタッフを連れて飛び込んできたりとか、ハチャメチャな展開が待っていた。
とにかく脚本がよくできていて脱帽。そういえば4月ごろ観た「ガンまげ」も、舞台の準備が整わないまま本番が来てしまうことによるドタバタ劇だったのでシチュエーションが似ているな。この「ちょっとノゾいてみてごらん」は再々演らしいので、「ガンまげ」を書いた人ももしかして観ていたかも。
いやーとにかく楽しめました。特にアルツハイマーなおじいちゃん役のサミー関口さん。「絶妙なテンポの悪さ」のバランスの見事なこと。f分の1ゆらぎ的の微妙な不安定さに、目が離せなくなる。また、おばあちゃん役のいまむらのりおさん。途中からどうみても伊東四朗にしか見えない女装。強烈なインパクト。出番が来るたび、「待ってました」って心の中で拍手してしまう存在感。まずはこの二人に気持ちを持っていかれ、この二人とのぶつかり合いの中で他の登場人物も魅力と輝きを増していったような、そんな感じだった。
好田タクトさん、あまり目立ってもいけないけど目立たないとゲストの意味が無い・・・という難しい立場の中で好演しておられた。たぶん、毎回終わってから「これでよかったのかな?」って思ってしまうような役どころだろう。正解は無さそうだが、その都度の舞台の上に正解が埋まっていそうな気もする。
まーとにかく、面白かった。最後の最後、なぜかアルツハイマーが治ってしまったおじいちゃん、普通に挨拶するだけで大爆笑ってのがまたすごい。

さて、このお芝居を観ていて私は、とっても似たテイストのものを知っている気がして仕方なかった。6月に観た「アチャラカ荘」である。いくらでもしみじみできそうなエピソードを敢えてカラッとサラッと笑いに転化してしまう軽さ。でも人間の愚かさ、マヌケさに対する温かい視線も感じられる。「軽くてあったかい」この感じ・・・。
帰宅してから「アチャラカ荘」のスタッフをネットで検索して調べたところ、演出が「おっ、ぺれった」と同じ永井寛孝さんだった。おお、びっくり。私、めったに演劇見ないのに、たまたまぜんぜん違うきっかけで観た舞台が同じ演出家の人だなんて!そして、その舞台をみるきっかけを作ってくれた芸人さんが、両方とも「馬車道 おきらくシアター」で出会った芸人さん(遠峰あこさん、好田タクトさん)だったという不思議。
ううーむ・・・最近おっかけている山田晃士さんもそうだし、毎年ベロラバが楽しみのあこる・デ・ノンノンさんもそうだし、タクトさんもあこちゃんもあそこで出会ったんだ。「おきらくシアター」って、私の中ではかなり大きな伝説です。