ラースホルム・セミナー

8月末の3日間、アコーディオンサマーワークショップというイベントがあった。アコーディオンを学んでいる人を対象とした公開レッスンを中心に、北欧から招いたアコーディオン教育の大家、ラースホルムさんのコンサート、囲む会と称したミニコンサートなど、いろんな企画の中にセミナーというのがあった。
ラースホルムセミナー「北欧のアコーディオン音楽の歴史」・・・タイトルからして堅そうでしょー。ラースホルムさんのことだって、その筋ではとっても有名な人なんだけど、日本ではかなりアコーディオンを気合入れて習ってる人しか知らないし、部外者からみたらいささかマイナーに過ぎるイベント。しかし、このセミナー、なんと、あのcobaさんがゲストだったんですね。ラースホルムさんとお友達なのだそうだ。
ラースさんに限らず、私の先生とかその周辺の人も全員cobaさんと親交があってびっくりしたが、それはアコーディオンという楽器がマイノリティである証やもしれず・・・プレイヤー人口の少なさを物語っているのかも・・・。ある程度のレベルの人たちは知り合わざるを得ないというか。
何にしてもまあ、赤レンガ倉庫でカッコよく蛇腹をブイブイ言わせているcobaしかしらない私にとっては、たいへん近い距離で彼の素のお話が聞けるという貴重な機会なのであった。
セミナーは聴講している人全員がアコーディオン弾きということが前提だったため、いきなり何の説明も無くフリーベースとかスタンダードベースという言葉が当たり前のように使われて、私はわかったけど、私がむりやり引っ張っていった友達は「????」という顔をしていたので、後で休憩のとき説明した。フリーベースってのは左のボタンが鍵盤と同じにドレミ・・・の単音が出るもの。和音を出すには、複数のボタンを押す必要がある。スタンダードはソレに対し、一つ一つのボタンに和音が割り当てられているので、一個押せばコードが弾ける。日本で圧倒的に普及しているのはスタンダード。ボタンの場所さえ覚えれば、簡単に伴奏が出来てしまう。ただ、複雑な和音になるとボタンが無いため、限界がある。GM7とかC6とかを出すにはちょっとアタマを使わねばならない。簡単に言うと、まーそういうことです。
セミナーと言っても、基本的にはラースさんが持ってきたレア音源やレア映像をみんなで観る会であった。だいたい1930年代から1970年代までの北欧~ヨーロッパの有名なアコーディオン奏者のもの。レジュメとかが無かったので、出てきた人の名前をすっかり忘れてしまったのが悲しい。
印象に残ったのは1960年代に活躍したアコ奏者。とにかく超絶テクで「熊蜂の飛行」なんか聴かせてくれる。
「熊蜂の飛行」ってこの曲です。誰でも聴いたことあるよね。もともとはピアノ曲で難曲といわれる部類に入る代物。

この曲、いろんな楽器で曲芸的な速弾きを見世物にするときに使われたりするが、速いだけで演奏としての味わいが無いことが多い。でもセミナーで聴いた曲は、速い上に演奏としても魅力的に成り立っているのがすごかった。音のツブ立ち、蛇腹の強弱で蜂の羽音の唸りが感じられ、「おおー、たしかに蜂が襲来してくる感じ・・・。」そそ、速いだけだと、この情景描写力ってのが無いのだ。速いだけ、巧いだけの演奏ってのは、何も感じさせてくれない。
また、彼の奥さんと重奏での「トッカータ」。キースエマーソンで有名なニ短調の方ではなかったが、どう聴いてもプログレにしか聴こえない。キースエマーソン以前にこんな人がいたのか、と。
それと、印象的だったのは演芸の人。蛇腹がものすっごくながーーーーく伸びる特殊なアコーディオンを使ったお笑い。速く弾くあまりに鍵盤から手が飛び出して蛇腹まで言ってしまい、蛇腹に指を挟んじゃうとか、蛇腹が伸びて地面に着いちゃったのを引っ張り上げながら演奏するとか、蛇腹の特性を生かした芸を作り上げていて、さらに演奏の腕もすごくてねぇ。
こんな映像をみんなで観ていたとき、Cobaさんもすっかり見入ってしまっていて、普通にアコーディオンマニアの人みたいな顔をしていたのが印象的だった。「僕も初めてのものばかりです。」ってうれしそうに目を細めて、まるで鉄道ファンが電車を見るような、野鳥マニアが鳥を見るような、そんな顔で。
また、cobaさんの物静かでアカデミックな雰囲気も新鮮だったなあ。自分の中にしっかり積み上げたものがあり、大きな世界を相手に戦っている人というのは往々にして物静かだ。でも胸の奥に炭火みたいに静かなる熱を持っている。それが感じられた。これをオーラというのかもしれない。
セミナーなので基本的にあまり生演奏は無かったのだが、ときどきラースさんが自分のフリーベースアコを手にとって、軽い小品をさらさらっと弾いてみせてくれた。そのさりげなさが何ともいい感じ。おおげさにならずにね。

そんな中にABBAの「MAMMA MIA!」があった。彼はスエーデンの人なので自国のアーティストの曲を何かということで選曲したのだろう。これが軽くてかわいくてステキな編曲。あー、私も弾いてみたい。この曲好きだし・・・。
と思っていたら、先日私の先生が模範演奏で弾いている場面に遭遇。「譜面下さい」といったらコピーさせてもらえたので、ただいまウキウキ練習中。
ちょっとGからD#の運指がキツくて、手の甲が攣りそうになりますが。

「MAMMA MIA!」はこんな曲。

最近ミュージカルにもなったが、私にとっては映画「プリシラ」です。

ところで後日談ですが、この時期ちょうどリシャール・ガリアーノが東京ジャズフェスのために来日しており、なんだかんだでCobaガリアーノ・ラースホルムというアコーディオン界的にはとてつもなく豪華なメンツで晩御飯を食べに行ったんだそーな。アコ界三大巨頭会議みたいなモンでして・・・うむむ、2008年8月はアコーディオン的には歴史的な月となりましたな。