ハナシガイ Vol18 太田惠資&斉藤ネコ

ふと振り返ると、3月になってから一本もライブを見ていない。
どうりでなんか、毎日息苦しい気分だったわけだ。じゃ、今週末、なんか見に行こうか。と思ってはみたものの、あまりピンと来るのが無い。でも出かけたい。なんか観たい。
こんなときは、とりあえず飛び込んできた情報に乗っかってみる。そんなロシアンルーレット気分のときにこの面妖なライブ「ハナシガイ」の情報が入ってきたのでした。
もともと私は同じ楽器がムダに複数あるというシチュエーションが好きなので、ツインバイオリンというめずらしい編成にも興味を引かれたし、斉藤ネコという名前に少し耳覚えがあった。確か、椎名林檎のアルバムのアレンジなどもやっている人である。
興味のポイントが3つ以上になったら、まったく知らないものでもとりあえず出かけてみるべし。

さて、「ハナシガイ」・・・ライブのうたい文句はこうである。
「飲む打つ喋るときどき奏すハナシガイ」
18回を数える会なので、ネット上にも過去のライブレビューがいくつか見つかったので読んで予習。「1時間半も遅れていったのに、『今始まったばかりですよ』と言われた。」とか、「飲んでしゃべってばかりで、なかなか弾かない」とかいう感想が散見されたが、だからつまらないという意見は無く、見た人たちはそれはそれで楽しいらしかった。

太田惠資さん、斉藤ネコさん、ともにバイオリニストである。バイオリンというとどうしてもお行儀の良いイメージがあるが、30分ほど遅れて会場に入った私の観たものは、すでに酔っ払ってレロレロ状態の太田さんが、お店のオーナーの娘さんをステージに引っ張り上げて、無理やりバイオリンを弾かせてそこに即興で絡んでいるところであった。
ステージ上にはアップライトピアノ、酒瓶と本がならんだ本棚。天井にポスターべたべた。ステージ右奥にたっぷりと生けられた白百合。垢抜けた退廃ムードの古いジャズバーである。二人のバイオリン弾きはウイスキーのグラスを空けながら、弾くかなーと思えば喋ってばかり。客席を見て「この前のマンダラ2より入ってるねー。」「あのときはあんまりお客が少ないんで、客をステージに上げて並べちゃったもんねー。」なんて話しながら、おもむろにマンダラに携帯で電話かけて「今日はこの前より客が多いよー。」なんて言ってみたり、やりたい放題酔っ払い。
どうやら何も決めずにバイオリンを持ってステージに上がり、いきあたりばったりで弾いたり喋ったり飲んだりするライブらしい。
曰く「東京で一番ひどいライブ」だって・・・。
一部の締めにアラブ風の即興演奏を一節(けっこう長かったが。)

二部、偶然お客として来ていたピアニスト(谷川俊太郎のご子息だそうな。)をむりやりステージに上げて、スタンダードナンバーでアドリブ大会。「親の七光り」「東京ボンボン倶楽部」などいろいろ言われながら、不肖不精といった風にピアノの前に座った谷川氏、演奏が始まってしまえばまんざらでもなくばりばり弾きまくる。そこに自由に絡む二人のバイオリン。ぐわーっと弾いたかと思えば完璧に休んで飲んでたり客と喋ったり席を立ってトイレ行っちゃったり、いやあ今ライブ中なんですけどー。太田氏、なんとくわえたばこでバイオリン。煙もくもく。弓の弦が切れて、2,3本飛び出してるのもかまわない。酔って何度も何度も同じ話し繰り返し、演奏中に床に倒れてステージから見えなくなって、客席からがんばれって声援が。そんなテイタラクなのに演奏すると骨太で魅力的な音を奏でる不思議な人。
八方破れの太田さんに対し、斉藤ネコさんはさりげなくまとめる人って感じだった。自由闊達にやっているようでいて、拡散していくフリー演奏を「音楽」としてまとまるように随所に小技を効かせて締める知能派。

最後、勝手にアンコールのときお客さんにフィンランドの方がいるので、何かフィンランドの曲を・・・ということになったけれど、思いつかず。グリーグの曲を弾き出す谷川氏に、「それはノルウェーだよ。失礼だよ。」と突っ込むネコ氏。どこかで「シベリウスだよ、シベリウス」って言ってる人がいて、それじゃあ、「フィンランディア」を・・・ということになったが、メロディが思い出せないといっているところに、客席から鼻歌で助け舟。「あ、でもそれ第一楽章だよね。」なんていわれてたりして、いやはやお客さんもかなり濃い。こういう世界があるのねえ。面白いー。
結局「フィンランディア」とは関係なく完全インプロでやったのだけど、バイオリンの音にピアノが入ることで奥行きが出てとてもよかった。なぜか私には鉄道的疾走感を感じる曲だった。

終わって一緒に見にいった「ひ」さんとご飯を食べていたときに「でも音楽の人って、未完成のものをやっているときでもとりあえず楽しそうだよね。」って話をした。お笑いはそうはいかないもんなあ。ある程度完成させないと人前に出せない。未完成のものをやっているとき、お笑いの人は苦しそうである。
してみると、音楽と笑いってずいぶん違うんですねー。

同じ楽器が二つ・・・ってことで、ぜんっぜん雰囲気もレベルも違うもので申し訳ないが、私が思い出すのがこれなんです。
ジグジグスパトニックのツインドラム。
これ、別に2人いなくても・・・。シンクロして同じように叩いてるだけだし・・・。
なんかムダっぽい。
でもそれがなんとも80年代的でもあるか・・・。