下北演芸祭2月16日分

下北演芸祭の中で、私が観たい企画は二つあった。
ひとつは昨年観て面白かった「桂雀三郎まんぷくブラザース聴き放題」、もうひとつは「ポカスカジャンの色物の逆襲」である。
「よし、この二つを観よう」と決めてからあらためて日程を見たら、なんと同じ日〜。
私は心身のキャパシティが狭いため、ライブは一日ひとつが限界なのだが、今回は掟破りの一日演芸2連チャンを決行した。
だって、観たかったんだもん。しかし両方濃かった!おかげで頭パンパンです。

桂雀三郎まんぷくブラザース聴き放題>
ヨーデル食べ放題」でおなじみ、落語家の桂雀三郎をメインボーカルに据えたコミックバンド。
動画見つけたので貼るけれども、実際のライブではこんなコテコテの扮装しないです。白いシャツにベスト、スラックスとプレーンなバンドマンスタイル。予想を裏切る紳士的なたたずまいです。

ウッドベース、ギター、フラットマンドリンの編成で、登場から最後まで同じ立ち居地。凝った演出も無く、喋りを入れながら次々に曲を披露していくのだが、これが飽きない。曲のアレンジで多少の違いはあっても、全体的にテンション同じなのに、まったく中だるみ無く聴き続けられるのである。
なんでだろう?歌詞も喋りも押し付けがましくないのに、耳にしみこむみたいに入ってくるんだな。それはやっぱり、雀三郎さんが落語家だからかも。歌詞で語られる物語が、しっかりお客の耳と心に届く。ちゃんと言葉が聞こえてくるから、ずっと聞けるんだろう。
昨年聴いた曲もあったが、新曲「反逆者の歌」は良かった。カーナビの指示に逆らい続ける男の歌。でも3コーラス目で負けちゃうんだけど、その負け方が可愛い。いよっ負け上手!田辺聖子の小説に出てくる男の人なんか見てても思うけれど、「負けてかわゆし関西男」なのである。
そんな歌の数々に笑わされつつ、「めっちゃうまうま母ちゃんの弁当は世界一」「サッポロ黒ラベルの歌-それぞれの味」なんかに泣かされもして、気持ちよく、心置きなく笑えるライブだった。
コミックバンド数々あれど、このまんぷくブラザーズが一番大人だと感じる。
危ないネタやタブーなネタに頼らない、生活感覚、小市民感覚、品性。誰も傷つけなくても、笑いは作れるんだよね。
個人的に「遠野物語」が気に入った。くだらなくて大好き。


ポカスカジャン 色物の逆襲>
昼のまんぷくブラザースが「ほどよく品よく気持ちよく」の面白さだったのに対し、こちらはまさに発狂しそうな面白さ。見終わった後に残ったのは、まるで事件に巻き込まれた後のような余韻。あるいは、洗濯機の中に放り込まれてぐるぐる回された後ってこんな感じ?
第一部はポカスカジャンの演芸ネタをメドレーで。ネタとネタの間を喋りでつながず、音でつなげる。つまり全部つながった一曲のようにして披露するという力技。ほとんどテレビやラジオ、ライブでも見覚えがあるネタであったが、連続でたたみかけるパワーがすさまじく、客席はあっという間に暑く湿っぽく(汗でね)なった。コブクロサンボマスターなど新顔も登場。進化してますなあ。
一部の最後にゲストの東京ボーイズ登場。先日高田馬場で見たテレサ・テンの曲を明るくしようとするネタを含め、おなじみ謎かけ問答まで。
いやぁー神がかった面白さだったわー。キャリアの長い芸人さんに対してよく「いやあーすばらしい芸ですね。」とか「ぜんぜん古さを感じさせませんね。」なんて言うことがある。あれって「でも面白くないですね。」って言ってるようなモンだと思うんだが、東京ボーイズの場合そんなこと誰も言えないくらい、面白さに「現役感」があるのがすごい。今の若手と渡り合っても負けないに違いない。
タブー系のネタでは北朝鮮がモチーフにされることが多いけど、いろんな人がやるんでもうフォーマットができあがってる気がする。変な表現だが、「安全パイのタブーネタ」。わが国で本気で「あぶなーいっ」って思えるのは皇室ネタとか。そういった意味でも東京ボーイズ、とんがってますな。安易に安全パイ、使いません。
東京ボーイズの出番の後にポカスカジャンが全員出てきて、「東京ポカスカボーイズ」と称して一緒に「謎かけ問答」。会場からお題を募ってその場で答えを作る。このイベントのプロデューサ、春風亭昇太さんも舞台袖から引っ張り出されて強制参加。答えができずに苦しんでいるところ、昇太さん以外全員が楽器を持ってるもんだから、演奏しながら全員で取りかこむという「いじめ」。面白かったなぁ。
仲八郎さんと菅六郎さんの間にポカスカののんちんが入ると「(ちょうど背丈が同じくらいなので)まるでリーダーがいるみたい。」と。その言葉を受けてのんちんは旭五郎さんの物まねでずっと喋るハメになった上、「コミックバンドはリーダーから先に死ぬんだよ。東京ボーイズもそうだし、三波伸介いかりや長介ハナ肇・・・」なんてみんなに言われて苦笑いのひととき。
それにしてもスペシャルでゴージャスな時間だったなあ。ここで終わっても文句は無い。しかしなんと、まだ二部があったのですねえ。恐ろしいことです。
休憩入って、第二部はポカスカジャンの持ち歌を中心に。見せ場はポカスカジャンの結成から今までを歌で綴ったもの。いや、皆さんいろいろ葛藤したり苦しんだり悩んだりしてここまで来てるんですなあ。こーいう話を聞くと、私なんかはホントに苦労していないなと思ったりします。
さらにアンコールが2回あり、2回目は「伝説のフィストチャンピオン」それまで眠そうにしていたちびっ子お客がピキーンと目覚めて、大喜び。子供って好きだねー、お尻とか。

ところで東京には「ボーイズ」と呼ばれる芸人さんは5組しかいないそうで・・・。
なかなか増えないという話が出ていたが、そりゃ当たり前だと思う。だって、楽器ができてネタが作れて面白いことが言えなきゃいけない。そして、そーいう人が複数いないとできないのだもん。喋りだけの芸よりも稽古する量は多いと思うし、さぼればすぐに芸の質は落ちるし。さらに人間関係もあるし・・・。ひとりっ子感覚の蔓延する日本、今後ますます減っていくのではないかと心配である。
落語ブーム、ピン芸人ブームは「ひとりっ子感覚」の表れなのかも、とちょっと思ったりした。

あと今回思ったのだが、ボーイズ芸で大事なのは「叩かれ上手なキャラ」の人。おでこが広かったりしてペチッと叩きやすくて、叩くといい音が出て、かわいそうにならずにいい味が出る人。
菅六郎さん、完璧です。すばらしい。私も叩いてみたい。

キング・オブ・ベスト

キング・オブ・ベスト

終わったあとは謎の「カレーの無いカレー屋さん」で一息。
会場で会った人たちとお笑い話に花が咲いたが、終電の時間があるので適当なところで退散。ちと喋り足りなかったぞい。