足立うたごえ祭典

私がアコーディオンを始めたのは、純粋に楽器としての魅力に惹かれてのことだった。
なので、歌うということにはまったくつながっていなかったのだが、たまたま加入したアコーディオンサークルの母体が合唱団であり、「うたごえ」につながりの深い性格を持っていた。そんなわけで「うたごえ」と名のつくイベントで演奏をするという機会を何度と無く持つこととなる。今回の「足立うたごえ祭典」もそんなイベントのひとつであった。会場は足立区のある小学校の体育館。
どんなイベントなのか、簡単に言えばメッセージ性のある合唱の発表会といったところだろうか。教職員の組合だったり、保母さんのグループだったり、K産党の議員さんだったりが、自分たちなりのメッセージを述べてから歌や踊りを披露する、というのが中心。そんな中、とくにこれといった主張もない私のサークルであるがメンバーにこの会の運営に深くかかわっている人がいるため、毎年お声がかかり、2曲ほどを演奏しているのだった。
この会の特徴として、出演者が衣装にほとんど頓着しないということがある。まったくの普段着で舞台に上がるため、さっきまで隣の席にいた人が今まさにステージに???ということもよくあるのだった。舞台にあがるまでの緊張感があんまり無くて、舞台と客席との間の境界線があいまい。それがなんか不思議な感じでもある。

演奏を終えて肩の荷が下り、会場で売られていたクッキーなどかじりながら他のグループの出し物を見ていたとき、「来年はうたごえ運動60周年だから、もっと大きい大会になる。」という話を耳にしてびっくり。うたごえ運動というものに、60周年・・とカウントできるスタート地点があるというのか?!なんとなく自然発生的なブームだったんではないかと勝手に思い込んでいたけど・・。
気になって帰宅してから調べてみたら、確かにはっきりした始まりがあるようである。関鑑子という女性が始めた活動が発端となっているようだ。みんなで集まって声を合わせて好きな歌を歌える場所がほしい。それが純粋な動機であった。しかし、歌というものの持つメッセージ性、それから団結を作る力の強さが政治的に利用されることも少なくなかったため、「うたごえ」という言葉には少なからず偏見がつきまとうこととなったらしい。(くわしくはこちら→「うたごえ運動」from WIKIPEDIA
たしかに「うたごえ運動」という言葉に、ちょっとナナメな視線を感じることもあるな・・・。
でもこの場所に集まっている人たちは、多少の思想性はあるにせよ、単に歌が好きで大勢で声を合わせて歌いたくてここにいる人たちが大半のような気がした。ステージで歌われている曲が知ってる曲だと客席中が歌の渦になるし、その名も「シングアウト」というみんなで歌うコーナーではさらに顕著に歌声が沸き起こる。
そこにあるのは政治的な何かではない。声を出すことが楽しいと感じる気持ち。それだけのこと。

基本的に「唄う」ことが前提になっているので、プログラムと一緒に歌本が渡される。でもね、これがいわゆる「うたごえ歌集」・・・うたごえ喫茶では愛好されている歌が中心なので、知らない歌ばっかりなのですよ!
たとえば「それじゃあ、○○ページの『たんぽぽ』を皆さんで!」とか言われても、ぜんっぜん知らない。さらに『たんぽぽ』という同名異曲もあって、「では次は違う方の『たんぽぽ』を・・・。」って言われて、またさっぱりわからん私。
でも、周りには歌声が渦巻いている。みんな知ってるらしい・・・・。
んー、異文化だ。でもみんな楽しそう。

何にしても、いろんな事情を抱えながら生活の中に歌をとりいれて、生きる糧にしている人たちがこんなにいるっていうのもステキなことだと思う。音楽のプロの人たちは音楽を作るために命を削るけれど、その音楽で生きる力を得る人がこんなにいっぱいいるのだ。
私も音楽に生きる力をもらっている一人。自分が楽器を奏でることで、もらった力をたくさんの人に還元していけたらいいなあ。最近はそんな気持ちでアコーディオンに向かっている。
昔は自分のためだけに音楽を愛していたけれど、大人になったということか。