落語ジャンクション 神田茜独演会
神田茜さんは初めてだがゲストが上野茂都さんなので、ちょうどヒマだし行ってみよう、と気軽に席をお願いして出かけた下北沢。
女流講談といえばきりっとした美女が張り扇の音も勇ましく、あざやかに語り下ろすイメージがあったのだが、「劇」小劇場のステージに現れたのは、どこかボーッとしたたたずまいの女性であった。
あかるい黄色の着物のその人は神田茜さん。10年振りの独演会なので、来てくれたお客さんひとりひとりと抱き合って泣きたいくらいです、などということをトツトツとたどたどしく話す様子はおよそ「講談師」には見えない。
ひとしきりご挨拶トークが終わると、茜さんは講談には欠かせない張り扇について話し始め、高座の上の風呂敷包みをほどきはじめた。中から出てきたのは彼女の手作りの張り扇の数々。チューリップの形をしているもの、肉球がついているもの、豹柄のもの、妙な音がでるもの、ゴムがついていて遠くからでも釈台を叩けるもの、リボンがついてて新体操のようにひらひらできるもの、などみょーな張り扇ばかり。それぞれお客に見せながら実演してみせるのだが、
不思議な不思議な茜ワールドに、このときすでに私は引きずり込まれていたのだった。
最初は短いネタを続けて3本。
失ったときめきを取り戻そう!と自分の会社の社長(かなりオヤジ)に初恋の男の子を投影し、恋愛感情を持てるよう努力するOLの話。バイト先の背の低い男の子が好きなのに、せっかく二人きりで帰ることになったとき「背が低いからモテないんだよ。」なんて、心とうらはらなことを言ってしまう女の子。それから内田春菊原作の、性行為をすると唇が赤くなる病気の話。
出てくる女の子がいたいけでおろかで情けなくて、可愛い。
恋愛話だけれどウェットなところがなくて、群ようこの短編小説みたいな味わい。
ゲストの上野茂都さんは例によって例のごとくヨレッとした普段着でヌボーッと現れ、「枯れたおじいちゃん落語家」みたいにボソボソと独り言のように喋りながら数曲。しかし、じわじわっと確実に上野オーラが浸透していく客席。
うわさの「布団が俺を呼んでいる」が聴けて満足。ほかに「煮込みワルツ」やタイトルわからないけど上野流のブルースや、飲みの誘いを断る心のうちを歌った曲、それから神田茜さんの著書「フェロモン」にささげるテーマソングなど。
喋りは聞き取りにくいくらいなのに、歌うと言葉がすごく胸に届いてくる不思議。歌詞の文体や言い回しなどは文語調だったりまわりくどい言い方だったりと、決して親切設計ではないのだが、伝える姿勢が丁寧。言葉を適当に流さない。
三味線弾き歌いというスタイルではあるが、楽器より言葉が主役。だからこの人に対して三味線の巧拙を云々するのは、ピントのずれた行為のような気がする。
上野さんは20代の頃、講談の定席に入り浸っていた時期があるそうだ。毎日通いつめているうちに、なんだか日常生活まで講談調になり郵便物なども講談口調で読むようになってしまったということで、なんと「確定申告における課税所得の算定方法」の文面を、講談口調で滔々と読み上げてくれた。これがかなり傑作。堅い言葉が多いから、講談口調にピッタシ。いつもは伏目がちの上野さん、このときに何度と無く客席をひたと見据える瞬間があったのだが、その目の強さにハッとさせられた。
そして再度、神田茜さん登場。なぜか着物にめがね姿。まずは大好きな映画「運動靴と赤い金魚」を紙芝居にしたものを見せてくれた。絵も自分で描いたそうである。なかなか味があるタッチの絵であった。手作り張り扇といい、作ったり描いたりするのが好きなのかな?
最後はやはり新作講談「初恋閻魔」
事故で圧死してしまったオバチャンが恋を知らずに死んだ女性と閻魔様との恋の橋渡しをするという奇想天外な物語。これも講談?一人芝居のようでもあるが役者っぽい暑苦しさは無く、落語っぽいけどもうちょっと上品で・・・でも講談ってイメージでもないよなあ。おかしくてちょっと切ない話であった。
なんか川原泉のマンガを思い出させる感じもある。この人はマンガ、好きなんじゃないかな?それもちょっと変わった少女マンガ(昔の「花とゆめ」に載ってたようなヤツ・・・そう、私の高校時代の「花とゆめ」のマンガはちょっと変だった・・・。)
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二人とも似たようなオーラの持ち主。見る人の心の肩こりをほぐす。
見終わった後、見も心もすっかり緩んでい私だった。
いがらしみきおのマンガに「ぼのぼの」ってのがあるが、この日はぼのぼのを二匹一度に見ちゃったみたいな感じだったです。
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神田茜さんの著書はコレ。
面白いよー、と事情通より情報あり。
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