馬車道おきらくシアター「楠美津香 美人百景」

楠美津香さんのことは伝聞でいろいろ耳にしており、シェイクスピア作品を板書しながら一人全役で語りおろす「超訳シェイクスピアシリーズ」が超絶おもしろい!という評判も知っていた。
なんかヤンキーねえちゃんって感じで面白いよ、なんて話も聞いていた。
興味はあったがなんとなく機会が無く・・・という感じで日が過ぎていたのだが、ライブを見ずに一ヶ月すごしてしまってほとんど禁断症状のようになっていたその日、たまたまおなじみ「馬車道おきらくシアター」があって、ラインナップが楠美津香ひとり舞台だった。
もうなんでもいい。なんかおもしろいモン、見せてー。私を笑わせてえぇー・・・。
Java研修で煮詰まりすぎて干上がった脳みそのまま、心の中ではゾンビのように呻きながら、とにかく発作的に向かったのであります。関内ホール(小)

その日いきなり思い立って、なので当然当日券なのだけど、受付の方が一瞬考え、「うーん、いいや、使っちゃいましょう!」といって、置いてあったチラシのクーポンを使うことに。な、なんと前売り価格で入場!嬉しい!こういうことあると、やっぱ贔屓にしちゃおう、この会・・・とか思っちゃうよね、ゲンキン。
客席の入りは半分強。でもこの会にしてはお客さん入ってるなあーと言う印象。
仕事先から直行したため、席についてから超特急でコンビニおにぎりを口に押し込み、お茶をぐびぐびやっているうちに程なく開演。

幕が上がると、ステージ上に茶髪・・・いや金髪の小柄なヤンキーねえちゃんが、カーキ色のだぶだぶのトレンチコートをまとって立っていた。
早口で簡単な自己紹介とか前説。タバコでつぶしたようなしゃがれ声。まさにヤンキーねえちゃんというか、テキヤのねえちゃんというか、アロハシャツとか着たらまんま、そのものだぁ。そんな姿から「堀辰雄」だとか「古今和歌集」だとか「シェイクスピア」だとかアカデミックな単語がこぼれ出てくるのも面白く。
最近はシェイクスピアばかりで、コントのひとり舞台というのは3,4年に一度だけだそうで、私いきなりとってもレアな会に当たってしまったようだ。以前は伝説の渋谷ジアンジアンでひとりコントをやっていたそうで、今回はそれと同じような感じでやります、と。その話が出たとき拍手が起こったので、そのときのお客さんも来てたっぽい。
以下、ネタ。

3LDK主婦
「私の一人コントというのは例えばこんな感じです。」と、ご挨拶代わりにはじまったネタ。NHKやガス、水道の集金人が、ちょっと留守にしたすきに「また後日うかがいます」というメモを残して去っていく。それを待ち続ける主婦。それだけならなんとなく「あー、あるある。」っていう感じを少し拡張しただけ・・になるのだが、この人の場合安易に「あるある」では終わらない。どんどんシュールでドタバタで、意味の無い方向に失踪していく。NTT、電気屋さん、ガス屋さん、左官屋さんなどなど、すべてを部屋に招き入れ、部品が足りないからと帰ろうとする電気屋を「帰っちゃダメ!帰っちゃうとまた、いつ来るかわかんないのだもの。」と引き止め、他のメンバーに監禁に協力するように哀願し、ているうちに部屋を警察に囲まれて・・・。

超訳カチカチ山

子供が通う幼稚園のクリスマス会用に作ったネタとのことだが、とんでもないバイオレンス血みどろ民話。もともと単純な話なので、超訳するとしたら逆に複雑にするしかなかったんですよ、と、おじいさん、おばあさん、タヌキ、ウサギにいたるまで余計なキャラ設定つけまくり。それもみんなカタギじゃない風、血なまぐさい風、Vシネ風のキャラ設定だもの。クリスマス会で披露したとき、泣いた子もいたとか。そりゃー泣きますって。このとき、衣装は金魚柄のアロハ。似合いすぎッス。

女子高生フォークソング部合宿

ジャージ姿で女子高生に扮して。合宿の最後の夜の打ち上げ中、片思いの先輩をめぐるひとりの女子高生の一人相撲を描いたコント。好きな人の目の前で涙をこぼし、「ダッ」と走り去れば彼が追いかけてきてくれて・・・そしてドラマチックな展開が・・・なんてのは、少女マンガ読みすぎの女学生が妄想しがちな展開。そーんないきなりわけわかんないこと喚いて駆け出したら、もし万が一惚れててもさめちゃうかもよ、男は・・・。とか思えるのは私がもう大年増だからでして、そんな「純情のパワー」を信じている時期もあったなあーと最初はちょっぴりノスタルジア。しかし、途中から壊れてくる。主人公の女子高生、駆け出した先の森の中で妄想のひとり芝居をするのだが、最初は普通に少女マンガな展開だったのに、2回、3回と繰り返すうち、先輩が自分を助けようとしてつり橋から落ちて死んでしまうとか、森の中で死体を見つけてビックリしてたら犯人は先輩だったとか、だんだん妙な展開に。ドラマチックには違いないのだが。
この人のコントは「あるある」で攻めるのではなく、純粋にスラップスティックなのだ・・・と確信しましたです。

逆ストリップ

「日本で一番速く着物を着付けることができたのは故・内海好江師匠で5分ということでしたが、私はそれを更新しました。石川さゆり「かもめという名の酒場」の曲が終わる間に着物を着付けます。」ということで、踊りながら着物をだんだん着付けていくという、美津香さん曰く逆ストリップ、逆道頓堀劇場。曲にあわせてステージを縦横無尽に走りながら、腰巻、襦袢、着物、帯、帯揚げ、帯締め・・・と着付けていく。3分ちょっとで遠目には立派に着物姿。
「でも近くで見るといろいろ難があるんですが。」と美津香さん。

軽井沢夫人

着物に着替えたところでこのネタ。着物に日傘、バイオリンケース。おハイソはムードの軽井沢夫人のキャラを立てたコント。ジアンジアン時代から人気のあったネタというか、人気キャラだそうだ。アンケートにも必ず「また見たいです。」「またやってください。」と書かれていたという。ネタとして一貫したストーリーは無い。コネタがたくさん集まってひとつのネタになっている感じ。しかし、軽井沢夫人というキャラクターの強烈さが、すべてのつなぎになっている。説明は難しいなあ。見てもらうしかない。
バイオリンを使って恐ろしくヘタクソなチャルダッシュを披露する場面があったが、ちゃんと本物のバイオリンを使い、笑えるようにヘタクソに弾いて見せていた。もしかしてほんとは、ちゃんと弾けたりするのかな?

全体として、すっごく面白かった!
なんかスカッとした。純度の高い刺激物を摂取した後のような爽快感。
ウェットなところがまったく無くて、笑ってほしい、ウケてほしいというパワーがすごかった。
ペーソスレス。叙情度ゼロ。心置きなく笑えてホントにスッキリ。
あーこれって、姉キンのときの桂あやめさんの印象に似てる。やっぱり経産婦の肝の据わり方なのだろうか?
ひとり者の場合、男女に限らず「私ってこんな人なの。私の世界をわかって!」みたいなメッセージを感じる瞬間がある。そこが面白うてやがて悲しき・・・とい味わいにあり、笑いながらちょっと泣けたり、共感したりするところなんだけど。
しかし、美津香さんのバヤイ、私が感じたのは「とにかく笑ってチョーダイ!」っていう攻めのパワーだけで、いわゆる「アイデンティティ」の表現的なメッセージは感じなかった。
うーん、なんでかねえ?結婚して子供がいるっていうことは「自分って何?」っていう疑問に対して、とりあえずの答えが出てる。母であり、妻である。その辺の違いかもなあ。家に帰ってとりあえず口をきく対象がいるか否か、というのもどこかでにじみ出るモンかもしれん。
どっちがいいとか悪いとか、そーゆうことはない。ただ、もしそんな傾向があるとしたら興味深いな、と思うだけです。

いろいろな人がいてオモロイですわ。
今度はシェイクスピア、見に行こうかな。