下北演芸祭「まんぷくブラザース聴き放題」


ヨーデル食べ放題」の小ヒットで一部には有名な、桂雀三郎まんぷくブラザーズのライブに行ってきた。

ヨーデル食べ放題

ヨーデル食べ放題

このジャケット写真がいかにもコテコテの吉本新喜劇風を連想させるものだったので、ライブもさぞかしドタバタなんだろーなー・・・なんて思いながら行ってみたわけですが、そーでもなかったです。


開演時間が来て暗転。なぜかお囃子が流れて明るくなったところに、メンバーが登場。
4人編成である。向かって右からフラットマンドリン、ガットギター、フォークギター、ウッドベース
おお、全員が弦楽器ではないか。
ガットギターが雀三郎さん。
もともとフォークギター担当の山中さんに、趣味でギターを習っていたのだそうで、途中で挫折して飽きてしまいそうになった雀三郎さんの気をそらさないために、山中さんがオリジナル曲を作ってきたのがそもそもの始まりだったとのこと。
それが行き着けの串カツ屋「櫓」のテーマソング。自主制作でCDを出すときに、カップリングが欲しいということで作ったのがかの「ヨーデル食べ放題」。それがラジオでかかって評判になって、東芝EMIからお声がかかり、メジャーで出すことになったんだそうだ。
そんなMCを挟みながら、その「櫓」のテーマや、「ヨーデル食べ放題」、そして「櫓」のオーナーの兄ちゃんが経営している白浜のペンションのテーマなどと披露。
続いて、全部は思い出せないが、若者よ鍋をするときは細かいことに気をつけろよというメッセージ、埋蔵金を探し回る子孫に歯がゆい思いをする先祖、お母さんが作るお弁当は最高という唄、花粉症を歌った「花粉でチャチャチャ」、失恋して一人鍋する女の悲しみ、僕の名前を略して呼ばないで、フルネームで呼ぶまで返事はしないよと歌う「寿限無」・・・などなど。
特に凝った趣向も無く、お色直しも無く、最初に出てきたスタイルのまま、テンションもそのままライブは続いていく。でも不思議と見てて飽きない。ときどき挟まる雀三郎さんと山中さんの、ボケとツッコミのある脱力トークがまたいい味。
それとマンドリンの人、ひげ面で熊五郎みたいないかつい人なのに照れ屋さんらしくて、自分のことに話題が及ぶと耳まで真っ赤になってしまう。かわゆい。
しかし思っていたほどコテコテではなかった。さらーっとしてるっていうか、笑いを押し付けてくる感じは無かった。それと、歌詞がしっかりあってちゃんと聴かせる唄が多かったのも印象的。ストーリーのある唄が多かった。それを歌って聴かせるとともに、語って聞かせる感じもあり。「花粉でチャチャチャ」には4回クシャミをするところがあるのだけど、4回とも違う表情のクシャミだった。さすが噺家さんですな。
音楽的プロデュースは山中さんが一手に引き受けていて、その上で雀三郎さんがのびのびやっている風でもある。


ひたすら楽しく可笑しく笑って終わるかと思われたこのライブだったが、70年代の上方落語界を歌った「ああ青春の上方落語」あたりから雲行きが怪しくなってきた。怪しく・・・って悪い意味ではなくて、お笑いというよりハートフルな感じになってきたのだ。
「ああ青春の上方落語」は雀三郎さんが枝雀師匠に弟子入りした頃、上方落語黄金期のことを唄ったもの。懐かしくて暖かい雰囲気が漂うしみじみしたフォークソング
で、ラストから2曲目だったと思うが、サッポロ黒ラベルの唄。これがちょっと、泣けてしまった。
文字数は違うんだけれど短歌で言えば、人生のいろいろなシーンを上の句に、「サッポロ黒ラベル」ということばを下の句にした歌詞をえんえん繰り返して歌うだけのものである。
が、「はじめてわが子を抱いた日はサッポロ黒ラベル」とか「叱って殴って泣かせた日、サッポロ黒ラベル」とかいうのを聞いているうち、自分の頭の中にも、いままでビールを飲んできたいろんな場面がバーッとよみがえってきて、じーん・・・・。
やだなあ、もう。頭空っぽにしてただただ笑ってすっきりして帰るつもりだったから、油断しておった。
これ、ビールだからいいんです。ビールだから日常の中って感じでリアリティある。他のお酒ではこの味は出ない。
「人生経験が長い人ほど、いろいろと思うところがあるんではないでしょうか。」と、この唄を歌う前に雀三郎さんが言っていた。さもありなん。(てか、私そんなに人生経験長かったっけ?)

最後、舞台から引っ込んだと思ったら、間髪いれずにすぐに出てきてアンコールを2曲。
「ありがたみがないなー。もっともったいつけな、あかんで。」と突っ込む山中さんに、「いや〜、はよやらな、皆、帰らはるかな、思て。」という雀三郎さんに爆笑。
ちょっと咽喉を痛めていたらしく雀三郎さんの声がややかすれていたのが残念だったが、楽しいライブだったぁー。


しかし関西弁の男の人が自分のことを「ぼく」っていうのは、なんかかわいくていいねぇ。
(関東の男の人が自分のことを「オレ」っていう瞬間も鳥肌たつほどイイんだけど。)