90’sコミックソング・クロニクル3

90年代後半の更に後半、男性のギターデュオのブームがあった。代表的なのは「ゆず」と「19」。街を歩けばいたるところで、ギター抱えた青少年のつたないハモリに出会うことができた。「ブリーフ&トランクス」(略して「ブリトラ」)もそんな流れの中に出てきたグループの一つと言えるのだが、他のグループと大きく違うのは、彼らの曲の多くがコミックソングだったということである。まともな曲もあるけれど、大部分がお笑いだ。

初めて有線で「青のり」を聴いたとき、私は松屋でカレーを食べていたが、歌詞に耳を奪われスプーンを持つ手が止まってしまった。自分の彼女をかわいいかわいいと愛でながらも、発見してしまう「歯についた青のり」「微妙につながった眉毛」「鼻の頭のテカリ」などなど・・・。「人は外見じゃなくて中身だというけれど、いくらなんでもそこは愛せない」と唄いながら、ラストは「ごめんちょっと言い過ぎた、と心の中でつぶやいて、君の手をギュッと握るよ」と結ぶ。男の子ってもしかして、みんなこんなこと考えてる???と、女子的には思わずその場で鏡を取り出し、自分の顔をチェックしたくなる衝撃の歌詞。
(「青のり」は下記アルバムに収録。歌詞はこちら

ブリトラゴールデンベスト

ブリトラゴールデンベスト

しかしそれを唄いあげる声がどことなくナヨナヨしていて頼りなげ。私はなんとなく「あのねのね」を思い出していた。うーん、「あのねのね」に爽やかさをプラスした感じ?

ベスト撰集

ベスト撰集

親戚のお葬式で笑いをこらえる幼い兄妹を唄う「ろうそく」(歌詞はこちら)、無表情なコンビニ店員にささやかな嫌がらせをする(といっても混んでいるレジで迷いに迷った挙句おでんのたまごを3個買い、10000円札で支払い、さらにトイレを借りるというもの)「コンビニ」(歌詞はこちら)、一人きりって自由ですばらしいと唄う内容がだんだん変態じみてくる「ひとりのうた」(歌詞はこちら)など、ちょっぴりえげつなく不謹慎なテーマをスケール小さく展開。キャッチコピーは「半径5メートルの日常を唄う共感ソング」「くろいゆず」だったそうだ。「くろいゆず」は言いえて妙。その他「かたくり粉」「サナダ虫」「クラミジア」など、大人ならタイトルを見ただけで「おやめなさい!」とたしなめたくなる様な曲を、なかなかに達者なハモリで唄い上げる。
しかしそんな不謹慎ソングの中に「ペチャパイ」のようにけなげな女心の歌も混じってくるあたり、あなどりがたしブリトラ。とくに伊藤多賀之くんの歌詞は、なんでそんなに女の子がわかるの???って思うくらいリアル。しかしウェットではなくいじらしく、思わず抱きしめたくなる可愛さがある。チャーミングなのである。男の子側からこんな風に唄ってもらえれば、女の子冥利ってなもんである。(まあ、私は女の子ってトシではないけどね・・・。)
「ペチャパイ」の歌詞はこちら
いろいろあって(実際は伊藤くんの健康問題らしい)2001年に残念ながら解散。その後は伊藤くんだけがインディーズでソロ活動しており、ブリトラ時代よりさらにディープでコアな歌詞世界。「半径5メートル」どころか、ほとんどミリ単位、ナノ単位で日常の重箱のすみをつつきまわしている。しかしそこに「たまご」みたいな女子泣かせな唄もちゃんとあるのが不思議なバランス。下ネタも少なくないが(「満月」とかね。)小学生レベル。大人が思わずたしなめたくなる世界観は健在である。

一人七役ライブ2003

一人七役ライブ2003

ところで「ブリーフ&トランクス」というグループ名の由来は「サイモン&ガーファンクル」なのだそうだ。二人とも大ファンで、彼ら(とくにポールサイモン)にあこがれてギターを持ち唄い始めたのだというのである。この事実を知ったとき、あまりの意外さに絶句してしまった。確かにサウンド的には理解できるけど、なんで歌詞はあんなことになってしまったのでしょう。
ともあれ、「サイモン&ガーファンクル」のように「&」が入ればなんでもよかったということで、「机&椅子」「紙&ねんど」「椿&油」などの候補の中から「ブリーフ&トランクス」となったのだとか。

ちなみに伊藤くんが彼にとってのベストアルバムとしてあげているのが以下です。

Hearts & Bones

Hearts & Bones

なかなかワンマンライブをやってくれない伊藤君だが、なんと来週ジョイントながら無料ライブがあるという情報をキャッチ!詳細はここ
ちょうど近くまで仕事で行くのでこれはのぞきに行かなくちゃ、だわ。(しっかし、ファンの人たちって若いんだろうな・・・ちょっとコワイ。)