90’sコミックソング・クロニクル2

別にラップが好きなわけじゃないけれど、ここ10年くらいのコミックソングシーンを振り返るにあたって、無視するわけにはいかないジャンルなんだもの。コミックソングというものは都度その時代のメインストリームの形態を借りて現れる。フォークの時代はフォーク、ロックの時代はロック、ニューウェーブの時代はニューウェーブで、まあ90年代はどうしてもラップ・・・になっちゃう。好むと好まざるに関わらず。
と書きながら、この曲のことを思い出してみて、これが94年だったということに気づいて愕然とした。
10年前どころじゃないじゃん!もう12年前なの?「DA.YO.NE」って・・・・。

DA.YO.NE

DA.YO.NE

仲間内での恋愛ネタとか友達ネタとか、内容は薄い。何者とも戦わず、何者も傷つけない。でもその辺、ヒットしたJラップの傾向といえば傾向。コミックなものに限らず、「薄い連帯感」みたいなものは日本のラップの傾向と思う。「親に感謝」とか「夢を捨てるな」「明日を信じよう」みたいな内容が多い。いかにもワルそーなファッションを身に着けながら、道徳の教科書みたいなことを唄う奇妙さも、まあJラップの味ですわね。
それはともかくこの「DA.YO.NE」のヒットに便乗して、数々のフォロアーが生まれた。それが「ご当地ラップ」である。
単純に、「DA.YO.NE」を各地の方言に翻案し、その地方の名物などを唄いこんだものだ。関西版の「SO.YA.NA」をはじめ、確認できただけで5種類ほどあった。たぶんメジャーにあがってこない水面下では、かなりの数のご当地ラップが生まれていたことと思われる。
しかし、そのどれもがジモティだけが盛り上がれる薄っぺらなものだった。(と私は思っている。ゴメン。)「DA.YO.NE」に触発された「ご当地ラップ」は「DA.YO.NE」の歌詞を方言バージョンに直し、プラスアルファでその土地の名物、観光地などを唄いこんだものがほとんどなので、やっぱりその・・・薄いのです。愛が足りない。
愛とはもっとマニアックなものだ!他県の人間がみんな知ってるような、有名なものばっかり唄うのは、まだまだ愛が薄いのよ。相手のことをすべて知りたい、隅々まで知りたい、数字レベルで知りたい。それが愛なのよ。(ホントかしら?)

てなわけで、究極のご当地ラップというと、私はこれを推す。大田クルー大田区よいとこ一度はおいでチョイナチョイナ」である。

大田区よいとこ一度はおいでチョイナチョイナ(CCCD)

大田区よいとこ一度はおいでチョイナチョイナ(CCCD)

発売は2004年なので90年代コミックソングとはちょっとずれるが、大田区の名前の由来から、羽田空港、蒲田の餃子、環八環七、呑川、田園調布、桜坂などなど、とにかく情報量が多く、それがまた「大田区トリビア」とでも言いたいマニアックさ。これは並大抵のジモティ感覚では作れない。「大田区オタク」でも無い限り無理無理。で、そんな情報量を難なくラップに詰め込んで、楽曲としてはかなりの完成度。聴いていると無条件に楽しくなるパーティミュージック。また、取り上げるネタのマニアックさ、ディープさは「ちょっとそれは・・・」と思わせるものがあり、観光誘致っぽい下心が感じられる幾多のご当地ラップへのアンチテーゼとも見て取れる。だって誰が知りたい?大田区の人口、面積、姉妹都市アメリカ セーラム市だって・・・。)歌詞はこちら
カップリング曲の「KANEKOのバズーカ マジやべぇ」。なんだろう?と思ってたら大田区にあるKANEKOというパーティクラッカー専門の会社の作っているバズーカ型のクラッカーを唄った歌。この会社にたのまれたわけでもなかろうに、こんなクラッカーひとつで一曲作ってしまうその愛がすごいわー。


さて、これも2000'Sになってしまうが、わが地元栃木からも奇妙なラップグループが現れた。「テコ」である。

生きる

生きる

簡単に言ってしまうと「栃木弁でラップをする2人組」だが、そこで歌われるのは別に栃木の名物などではない。観光誘致な気分など、皆無である。栃木弁の促音便を上手く裏打ちビートにのせ、唄われるのは東京近郊のドーナツ化する現実、地方都市の中の変人の位置、工場労働の現場などなど、栃木弁での立ち話的に、そんな場面がときにリリカルに、ときにアグレッシブに、ときにシニカルに展開されていく。
ここにはもはや、栃木県をコマーシャルしようという気分はなく、ただ東京からやや離れた地方都市のリアル感を「栃木弁」というフィルターを借りて表現している。田舎のある身の上では、笑いながらもちょっと切なく、ちょっと近親憎悪で、ちょっといとおしい。不思議なご当地ラップなのである。(ちなみに私のお気に入りは「アイスクリームの夜」)

うわさによると宇都宮東高校(80年代当時はサブカル色が強い男子校で有名だった。)の出身らしい二人組。現在ニューアルバム録音中ということで楽しみである。


そんな「テコ」が影響された音楽は、実は河内家菊水丸河内音頭。ルーツに根ざしながらも新しい音楽と融合したものを自分たちもやりたい、と思ったのだそうだ。ラップという最新の形態を表現方法として選んだ若者が、じつはそんなドメスティックな伝統芸能にインスパイアされていたとは面白いね。

ってことで、ヨシッ、演芸につながったぞ!