NHK新人演芸大賞

今年の落語部門の受賞者は立川志ら乃さんだそうな。
という情報はネットで見て知っており、「あ、そうなんだ。じゃ、見てみるか」と確認するような気持ちで見た本日のテレビ放送。
私はとくに彼の熱心なファンでもなく、志らくさんの会に行くと必然的に聞くことになるので聞いていた・・・くらいの客。
当然ご本人には直接の面識はなく、熱心なファンやご贔屓の人たちに比べると恥ずかしいくらいの平熱なのだけど、審査員のコメントを神妙な顔をして聞いているとき、それから受賞して賞状を受け取ったときの志ら乃さんの表情を見ていたら、予想外にも涙が出て涙が出て止まらなくなってしまった。
いやー、考えてもいませんでしたが、感動してしまったらしいです。
ここ3年くらいの間に客として見てきた彼の高座姿や落語会の会場で働いていた姿などなどがバーッと頭の中を駆け巡り、「ホントにホントによかったねぇ・・・。」という気持ちでいっぱいになってしまったのである。
いやー、トシくうと涙もろくなっていけねぇ。


はじめてみたときは彼はまだ前座で、正直言ってほとんど印象に無い。
とくに志らくさんのお弟子さんは雰囲気が似た人が何人かいたので、見分けもついていなかったくらいだ。
しかし二つ目になるチョット前くらいから二つ目になった後くらいに、なんだかものすごく面白くなった。
そのあたりの時期に聴いた彼の「初天神」」「不動坊」が印象に残っている。
現代的なスピード感とタガの外れたクレイジーさが渾然一体となって暴れまくり、古典の様式が必死でそれらを押さえつけ「落語」という形の中にしっかり押し込んでいた
彼の兄弟子のこしらさん、志ららさんはどちらかというと現代的な感覚のウエイトが高いのだが、志ら乃さんはその辺のバランスが一定でない。
ある瞬間はアバンギャルドなほどだが、またある瞬間は過剰にクラシックだったり。
また非常に表情豊かなのに、どこか人も自分も突き放したニヒルな雰囲気もあったりする。
これは案外成長するかも・・・・なんて思ったりしたものだ。


今回のネタは「火炎太鼓」
落語ファンなら「志ん生の」という枕詞つきでおぼえているような大ネタであり、イメージされる演じ方の雛形もある。
そんな話で敢えて勝負に出て、なおかつ新しいスタイルを構築しようとした姿勢。
そのあたりが評価されての受賞であったのではないかな。
まあ、志らく落語をよく聴いていた立場でいうと、まだ「志ら乃スタイル」にはなっておらず、志らくさんの影響が濃いな、と感じるけれど、この人の他の噺も聴いてみたいと思わせる力は他の出場者に圧倒的に勝っていたと私には感じられた。


それにしても痩せ型の風貌にあの短髪、そこに着物でさらに噺家となれば、どうしたって粋な感じになってしまいそうなものだが、ぜんぜん粋にならないところが面白いねえ。
たぶん背が高いせいと、不敵な表情を浮かべていることが多いせいだと思うけど、着物の方が「あの、私を置いてかないで下さい・・。」ってしがみついているみたいでねぇ。
褒めているようには聞こえないでしょうが、私はそれがすごくいいと思っている。
現代っ子」って感じがとてもイイ!。
これが個性になるような気がしているんだけどなー。

受賞、ほんとによかったね。おめでとうございます。