志らくのピン シネマ落語「ダイハード」

池袋文芸座に場所を移しての二回目である。
今回は妹をかどわかして連れて行った。
前回は前座無しだったが、今回はらく次さんの「片棒」から始まった。
一つの噺の中に得意な部分と苦手な部分が混在しているのがまだわかる。
けれども、昔に比べるとずいぶん表情豊かになってきたものだわねえ、としばし遠い目。


このシネマ落語「ダイハード」、実は私は二回目である。
クロスタワーホール時代に一回聞いている。
そのときの構成は「野ざらし」「妾馬」それとあと一つ何か前座噺っぽいのをやって、それからシネマ落語という流れだったが、今回は「野ざらし」「妾馬」「ダイハード」であった。
もう一つの噺が何だったか私が思い出せないくらいなんだから、省いてしまっても問題ないんだわね。


さて今回、登場した志らくさんの着物の色にまずびっくり。
毛氈の赤が映ってるのかしらん、と目をうたがったがさにあらず。
あざやかなピンクの着物なのでした。
ショッキングピンクよりもやや黄味よりの冴えた色。
うわー、こんな色の着物も着るんだー、とちょっと意外。


二回目なので細部の演出がいろいろと変わっていたところも楽しめて、お得な感じ。
「野ざらし」で、八五郎が「しち?質は先月流れた。」というところ、以前は楽しそうに言った後ふいに涙ぐむというやり方だったのだが、今回はダジャレをとばして得意げに胸を張るというやり方だった。
以前の方が演技が複雑で好きだったが、まあ、考えてみれば今回の八五郎のキャラ描写には不要なのかもしれないなー。
とにかく今回の場合、本題の「ダイハード」までにこの八五郎という男が、お客におもいっきり愛されていないと盛り上がらない。(と、思う。)
愛すべきバカとして客の胸に刻まれていないとイカンのだ。
「妾馬」、以前聞いた時より笑うとことが多かったように感じた。
全体に、泣かせより笑わせ感が強くなったかなあ。
「あなた聞く人、ぼく語る人」みたいな見えない壁、自分で自分をすごいといい続けていないといられない不安定さ、ちょっとお説教臭いところ、など、仕事帰りに見るには持ち重りのする感じを受けることが少なくなかった志らく落語だが、なんか最近すごく軽い。
ひところ強かった気負いがあまり無くなったように見えるのだ。
自分を大きく見せようとするのをやめて、ありのままで出てきている感じ。
クロスタワーホールの頃はまさに「渾身の」と言える高座。ありったけの力を叩きつけるという感じでそれもよかったが、このところの「抑制の効いた熱演」がとても、私の精神状態にはちょうどよい。


「妾馬」で招待されたお城を「ダイハード」のビルに例えて、八五郎ブルース・ウィルスの役どころ。
以前の高座では「もう死にてぇよ。」というセリフが頻発していたが今回は無かった気が。
それからハートフルなエピソード(銭形が銭を投げられなくなった理由とか、最後に母親が孫を抱くところとか。)もわりとサラッと流して、全体にスラップスティックに徹している感があった。
まあ、私はこういう方が好きだなあ。
八五郎が何か言うたび会場は爆笑である。
みんな、彼が何か言うのを待っている。
不思議だ。
八五郎なんてどこにもいないのに、全員の頭の中に八五郎がいる。


見終わって、ふいっと心が軽くなるいい感じ。
妹とは、しばらくは「上は町人、下は侍、なーんだ?」で、遊べそうである。
しかし聞いてみたら「ダイハード」見たこと無かったんだそうな。
あとで復習ビデオ鑑賞会をやらねばなるまいぞ。