豊志賀


そんなわけでもう一本、ややまとまり系の文章を・・・。


「豊志賀」は実際は長い物語の中の一部なのですが、「豊志賀の死」の部分だけ取り出されて演じられる機会が多いようです。
怪談の中では比較的演じやすい噺なのでしょうか。
それほどしょっちゅう落語を見に行っていたわけではなかった私がひと夏で別の噺家で3回聞くハメになっていたのだから、回数を見る人はさらにいろんな豊志賀に出会っていることでしょう。

独身だけど仕事を持っていて、お金にも困っていなくて、今風に言えば「負け犬」ですかね。(正しい意味での。)
身持ちも固くて信用もあり、人格的にも信頼されていた大人の女性であったのに、年下の男性との恋愛から嫉妬のあまり原因不明の病にかかり、はては生霊になって化けて出る。
演じる人の話の解釈にもよるんでしょうけど、「年増の深情けはみっともない」的なテイストを感じるところがあって、なんかいたたまれない話です。
対して豊志賀の恋敵となる若いお久は純情可憐に描かれていますしね。
二人にはさまれて右往左往する新吉の優柔不断。
でも結局豊志賀が怖くなっちゃって、逃げちゃうんだよなぁ。
こいつ、許せないー!最低!
しかし、さすがに好きになった女が生霊になって襲ってこようとはおもっていなかっただろうからなあ。それは怖いに決まってるよなあ・・・無理も無いか。
新吉が気になって、豊志賀のお見舞いにかこつけて料理持って二人の家に訪ねてくるお久も純情ぶっていやらしいが、いじらしくもある。
私が聞いた噺家さん全員が同じキャラクター解釈をしていたわけではなく、演出の都合上人物による心理描写の濃淡はあったので、3人の話の中でそれぞれに掘り下げられていたキャラクターを総合して、登場人物に対して私はそんな風に感じておるわけですが。

この構図、なんかと似てるわと思ったら、「東京ラブストーリー」です。
私の中には「豊志賀、かわいそー!」と思う気持ちと「いくらなんでもそれはやりすぎよ。」という気持ちが共存しているのですが、それは赤名リカに対する気持ちとほぼ同類でした。いくぶん、「かわいそー!」の気持ちの方が勝っていますけど。
でもカンチに比べて新吉を許せるかも、と思うところは年の差ですね。
私の聞いた噺の中では豊志賀39歳、新吉21歳の設定でした。
江戸時代の平均寿命は50歳前後だったそうで、そうなると豊志賀はすでに老いの域に片足突っ込んでいる。対する新吉はまだまだ子供。
そこらへんがこの噺の上手いところかもしれません。
対等な大人同士の話ではないところが。

にしても、激情型の女と癒し系な女、どちらが選ばれるのかって、江戸の昔と現代と比べてもあんまり変わってなかったり・・・?

これはあくまで寄席やホールで聴いた落語の範囲内での私の感想なので、「真景累ケ淵」の真髄はそんなところには無い!とお怒りの方にはごめんなさい。
(あくまで軽薄短小な女子目線で書いております故。)