池袋演芸場下席

こぶ平正蔵襲名なんぞにはケほどの興味も無かったのだが、めずらしく友人に落語に誘われたことだし(だいたい落語イベントは私が先行することが多いんでス。サビシイ。)この際「見ておく」のもいいかも、と、旅先で名物料理を食べるみたいな気分で池袋へ。
1時頃着いてチケット売り場に行ってみたら「立ち見ですけどいいですか?」とのこと。
予想はしていたが、そうなるとトリのこぶ平まで3時間以上ってことになる。
どうせ立ち見なら、と待ち合わせた友達と1時間弱カフェフラミンゴで時間をつぶし、2時くらいに中へ入った。
劇場のドアを開けて中へ入るや、すでに凄い人。
入った位置から動けず、動けぬまま2,3席聞く。
噺は「堀ノ内」「人形買い」と続いたように記憶している。
一朝師の「転失気」を聞いたあと辺りから、なんとか動いて向かい側の壁際に移動したが、そこもぎゅうぎゅう詰め。
(あ、「転失気」は初めて聞いた噺だけど、面白かった。和尚さんに「三つ重ねのテンシキを持て」と言われ、小僧さんが笑いをかみ殺しつつ「ブーブーブー」と小声で言いながら杯を渡すところがすごくよかった。)
つくづくテレビの力を思い知る。
しかしそれだけに「楽しもう」という気持ちで観ているお客さんが多くて、雰囲気は良し。
正楽さんの紙切りにもリクエストがばんばん入っていたし。
前半のラスト、仲入り前は春風亭小朝の代演でなんと川柳川柳師。
ネタは軍歌歌いまくりの「歌は世につれ」だったが、年配のお客さんも多かったのでけっこう好意的に受け入れられていた。でも全体に駆け足の印象。
私は後半のジャズのくだりが好きなので、もーちょっとじっくり聴きたかったな。
ジャズドラムの真似が聴きたかったー。
仲入り後は襲名披露口上。
披露口上は菊之丞さんのときのを観ていたので2回目だけど、襲名する当人は一言も喋らない。
馬風・円蔵・一朝の三人が面白おかしく、ちょっとお下品に、ベタな感じでいろいろと喋った後、手ぬぐいが蒔かれた。

仲入り後は前半に比べて落語が少なかった。
馬風さんの漫談は許せるとしても、円蔵師の「道具屋」はちょっと「流してる」印象があってあんまりよくなかったな・・・。
そう思ったのって私だけかな?
で、ヒザがわりは先日も観た三増紋之介。
何度も失敗するのは多分に演出なのだろうけど、はらはらするうちに客席の気持ちがひとつになってきて、成功すると本当に盛り上がる。
また、この人はほんとうに嬉しそうに芸をやるので、見ていて気持ちいい。
「ヨシッ!」とか「ヤッタ!」とか言っちゃってね。

トリはこぶ平あらため正蔵の「ねずみ」だった。
印象は・・・うーん、やっぱり私は好きじゃない芸風だなあ。
ひとつひとつの仕草や言葉は非常に丁寧に演じている。
だからテレビでワンシーンだけ切り取られて放映されれば「いいんじゃない?」って思ってしまうかもしれない。
けど、緩急が無いのよねえ。
最初から最後までずーっと同じ調子。
「きめ細かい心理描写」と言う言い方をできなくも無いが、最初から最後まできめ細かいのはいただけないぞー。
なんか、稽古して誉められた完成品をそのまま高座に持ってきてるように見えた。
ここでお客の空気と混ぜ合わせて、新しいものにしようっていう感じがない。

しかし、観客の方はわりと「見守る」って雰囲気だったので、この日の客席にはあながち悪くはなかったのかも・・・・???
テレビを見てきた年配のお客さんにとっては、まるで孫の成長を見るような気分であろうか。
まあ、このタレントの襲名披露は落語を取り巻く数少ないポピュラーなニュース。
これを機会にお客さんが増えてくれれば、私も変人扱いされなくなるかもしれないし、歓迎しておくことにするよ。
と、日記には書いておこう。