第二回 市馬・菊之丞二人会

昨年の夏ごろに開催された二人会が好評だったらしく、二回目である。
仕事の関係でどうしても開演ぎりぎりにしか到着できず、予想はしていたがやはり立ち見。
まあ、二人ともそれぞれのファンをしっかりつかんでいる人気者だから仕方ない。
あと、昼席でやっている正蔵襲名披露興行の流れで、二人のことをあまり知らないお客さんも少々混じっていたようだ。
前座の噺がはじまって5分くらいのところで私は会場に入った。
前座の噺は「桃太郎」
意外と巧く、でも前座らしい若々しさもあっていやらしくなく。
けっこう受けていて客席がかなり温まる。
前座が受ける会は、お客さんの雰囲気もいい気がする。

古今亭菊之丞「元犬」
柳亭市馬  「くしゃみ講釈」
(仲入)
柳亭市場  未詳
古今的菊之丞「付き馬」

「元犬」は小手調べという感じで、まだ力を出し惜しみしているかな、という印象。
菊之丞さんの顔をみるのは本当にひさしぶりだが、年配者の役が巧くなってきた気がする。
老人まではいかない年齢の、もののわかった枯れた大人の役。
今回はどっちも女の人が出てこなかったので、私の好きな「おかみさん」キャラが無かったのが残念かな。
市馬さんの「くしゃみ講釈」はすごく面白かった。
以前の二人会でも感じたが、二重構造の演技がすごく達者だと思う。
つまり「何か事情を抱えて唄っている(あるいは演技をしている)」という様子がとても巧いと思うのだ。
「七段目」のときは「ホンモノの日本刀で今にも切られるのではないかと怯えながら女形の演技をする小僧さん」、今回は「七味とうがらしを燃やした煙にくしゃみをこらえて講談を語る講談師」である。
こういう見せ場にかなりたっぷり時間を割いて見せてくれるのがいい。
全体的に「朗々と」という表現が似合う噺家さんだなあ。
講談師のあまりの様子に思わず男(七味のけむりの張本人)が「ねえ、あの・・・大丈夫ですか?」と声をかけてしまうところがツボに入ってしまい、足が痛いのも忘れて涙を流して笑ってしまった。
今も思いだすと笑いがこみ上げてくる。
ここで仲入り。
仲入り後、なんか聞きなれない出囃子が・・・と思ったらなんと三増紋之介が登場した。
「ちょっと楽屋に顔を出したらこんなハメになってしまいました。」とのこと。
立ち見のお客様に申し訳ないので、サービスの意味で飛び入りしてもらったらしい。
きびきびとした曲独楽が楽しく、客席の盛り上がり方も凄かった。
とくにトトロ綱渡り(?)では、手を頭の上まであげて拍手している人も。
寄席ではめずらしい光景。

その後の市馬さんの噺はタイトルわからず。
季節柄、人形買いの話。
こちらは肩の力を抜いて演じていて気楽な感じだった。

そしてトリは菊之丞さんの「付き馬」
同じ噺をこの前志らくさんで聞いていたので、どんな感じかしらと興味しんしん。
こちらはほとんど噺をいじっていない(と、思われる。)「付き馬」であった。
噺としては余分なものも足りないものも無いといった感じであるが、「菊之丞を観る」と言うことを含めて彼の落語なのではないかな。
菊之丞ファンは菊之丞を観に来ている・・・という要素がかなりあるのでは。
この人の場合、他に似たタイプの噺家さんがいない(寡聞にして知らないってだけかもしれないが。)
だから、他の噺家の高座を見ながらも、「菊之丞さんだったらどう演るかな。」なんて考えたりすることもある。きちんと語ることが個性に結びつく不思議なキャラクターである。。
今風アレンジは極力少なくしての「引き算の落語」が成立する稀有なタイプかもしれない。

ところで「付き馬」のときの菊之丞さんは黒の着物に黒の羽織。
匂いたつようでありました。うーん、うっとり。

「くしゃみ講釈」の前に市馬さんが
「おぼえ切れていない話を高座にかけるときはお客様を楽しませきれないこともありますが、お客様の力に助けられてものすごく面白い高座に化けることもあります。」
というようなことを言っていた。
最初に菊之丞さんが「今回はいまいち覚え切れていなくて自信がない。」みたいな内容のマクラを振ったのでそれを受けてのことかもしれないが、これってホントにそうだと思った。
落語ってナマモノ。
お客さんのムード、噺家自身の調子の良し悪しでぜんぜん違う印象になってしまったりする。
お互いの調子が合うと、とんでもなく面白いものになる。
それから共演者どうしのライバル意識で、レベルが上がる場合も。
テレビでもビデオでもCDでも落語は聞けるが、私が好んで寄席に行くのはそこなんである。
同じように見えて、毎回違うからなんである。
今回はかなりお互いが合った方ではないかな。
かなりいい空気だったと思った。

帰ってきて「タイガー&ドラゴン」を見る。
落語の持つ要素をうまくドラマにしていておもしろくて好きだけど、やっぱりテレビと落語は別物として切り離して考えた方がよい。
よく出来た筋の話を語って聞かせ、最後にキチンと落とすという形ならテレビ向きと思うが、落語ってけっこうサゲでバシッと落とすことよりも、そこへ至るまでの噺家のしぐさ芸が大事な場合も多いんで、やっぱりそういうのは伝わりにくいだろう。
まあ、、このドラマの作り手はそれをよくわかっているみたいなんで安心だけどね。