柳家紫文「三鷹deきいたか」

柳家紫文を初めて見たのは4月の末広亭だった。
すらっとした着流しの姿のいい男が三味線抱えて出てきたので、なんかお笑い抜きの粋な芸事が始まるのかしらんと思っていたところに「長谷川平蔵
虚を突かれてしばし呆然。そして爆笑。
そのときは母も一緒にいたのだが、「まじめな顔してあんなふざけたことを言うなんて思わなかった。」と大笑い。
しばらく「七味が十二味に・・・」は内輪での流行語大賞
第一印象と芸の内容との落差で非常に印象に残っていたので、三鷹でライブをやると知り、三鷹在住の友達を巻き添えにして行ってみた。
カフェとバーが合体したような(カフェバーじゃないぞ!)小さなお店「文鳥舎」というところでのこじんまりとしたライブである。お客さんは30人前後だったかな。
アコースティックギターが似合いそうな、ノスタルジックな喫茶店風。壁いっぱいの本棚にマンガではない本がいっぱい。70年代の少女マンガに出てきそうでもある。
(主人公たちのたまり場で、話のわかるマスターがいたりするよーな。)
着物の人もちらほら。みな正統派な着こなし。私も一応着ていったのだけど、私が昭和志向とするならば、江戸風味の着方で全体にきちんとしている。
うわー、これはワタクシ、羽織脱げないわぁ。
最初は前座の女の子が何曲か。
緊張しているらしく、バチを持つ手がものすごく震えているのがわかった。
好感の持てる、一生懸命な愛らしいステージ。
その後、もう一人のお弟子さんと新内流しをしながら紫文師が登場した。
(登場したって言っても会場狭いんで、それまでも席の後ろの方にいらしたのですが。)
その後またトークを交えて何曲か聞かせてもらったのだが、私が不勉強なため何の曲をやったのかはわからずです。
しかし、やはりお弟子さんの三味線の音と比べると、テンションがぜんぜん違う。
表情豊かで澄んだ鋭い音色。激しかったり、柔らかかったり、クールだったり、あったかかったりいろいろに聞こえる。
ただ、私も事前にホームページを見て知っていたのだが、かなりひどい風邪をひいてしまったとのことで、唄うときは思うように声が出なかったらしい。
だからって別にステージの質を著しく落とすようなものは感じなかったし、じゅうぶん楽しかったし、やはりプロフェッショナルだなあと感じさせられた。
それに、そんな紫文さんを見守るお客さんの目がとても温かい。
みんな、柳家紫文という芸人を愛しちゃってる人たちばっかりなのねえ。
だからこそ、きっと彼は自分の体調が悔しかっただろうなあ。
でも、ファン心理としては、滅多に見られないモノが見られた感じがして、それはそれでちょっと嬉しかったりも。

私も何度か体調不良でのインストを経験しているのでわかるが、人前に出ると咳とかはなぜか出なくなり、ちゃんと進行できるくらいには頭は回るようになる。
でも、熱があるときって咽喉が閉じてしまう感じになって、声が出ないんだよねー。
その上、自分の声がとても遠くに聞こえる。
そんな中、ステージ上で喋りながら三味線をどんどん調弦しつつ進行していくんだからすごい。

かなりアットホームな雰囲気だったので、打ち上げに出ても面白かったかもしれないが、今回はとりあえずパスして、友達と三鷹で呑んで帰った。
邦楽のライブだったのに、不思議とこじんまりとしたフォークライブみたいな印象が私には残った。
中央線沿線という土地柄のせいなのか、それとも紫文さんの年代的なものなのか。
「客席の優しさ」のせいもあるな。
ああいう雰囲気は寄席には無くて、荒んだ感じのお客も多いからなー。

ところでつねづね落語系イベントで感じることなのであるが、吉原などの色っぽい話がでてきたときに、どうみても「あんた、関係ないでしょーが」と言いたくなるようなもっさりした殿方が人が一番先に笑い出すのはなぜかしらん。