鈴本演芸場&黒門亭

寄席に行ってる割には、本命の菊之丞さんが見られていなかったりする。
4月鈴本の下席主任が彼だったのは知っていたが、なかなか時間がとれず。なんとか千秋楽に見にいくことができた。
正直行って菊之丞さん以外はさほど見たい人が出ていなかったのがネックだったのだが、真打昇進後の初主任だしね・・・・。
ファンとしてはやっぱり足を運ばないわけに行かないでしょう、とインストの仕事の後、抜け殻のような体で駆けつけたのだった。
でもなんだかんだ言って、席に座ってしまえば楽しいのが寄席なのですけどね。
今回初めて見たのが若手中堅の人気者、柳家喬太郎
年金ネタの新作だったが、まさに今、この時期にやるからこそのネタ。
闇金の取立てみたいな感じで国民年金を取り立てるという噺。
まさに食べごろの旬に、落語に仕立てて提供してくれたことに感心。
個人的に彼の芸風はあんまり好きではないけど、(引きの芸というか、ちょっとナナメに構えている感じ。)時事ネタへの瞬発力には期待大だ!
今回も金馬師匠が出ていた。
なんだか寄席に行くとかならず金馬に会う、って感じだけれど、すごいと思ったのは・・・毎回違う噺なのだ。
同じ噺家を何度か見ると、一度や二度は同じネタを聞くハメになるのだけれど、彼に関してはそれがない。
もう5,6回みているが、毎回違う噺。
それも非常に安定感がある。
まあ、年の功なのだろうか。
何にしても、なんとなく出かけた寄席に金馬師匠が出ていると、ちょっと得した気分になる。
それと笑組が印象に残った。
内海桂子、好江の弟子ということを知っていて見ていると、ボケとツッコミのタイミングからキャラクターのバランスから、まさに師匠コンビにそっくりだ・・・・。
この日の菊之丞さんは「三味線栗毛」だった。
以前ワイン寄席で聞いたことがあったけど、さらに軽やかに伸びやかになっていたのが印象的。
どこかのほほほんとした、憎めない若いお殿様のキャラクターがいい。
かねがね「三味線栗毛」という噺は最後の部分だけあれば、このタイトルに見合う噺であるのに、と前半が余分な印象があったんだけれど、前半のニシキギとの関係あってこその最後のダジャレのようなオチなのかなと思わせられた。
ニシキギがマッサージがてらに落とし話を聞かせていなければ、あんな茶目っ気のある名づけ方はしなかったのかもしれない。
なんて、深読みさせる分だけ、彼が巧くなっていたのでしょう。
その後日曜日は菊之丞ファン仲間のSさんと黒門亭に行く。
菊之丞以下、人気者がたくさん出るので早めにいったのがよかった。
満員札止めで、入れなかった人もいたのだ。
まあ、定員40名というのもシビアーだけれど。
で、早めにいったおかげで、たいへんいい席に座ることができた。
じつは高座の目の前の席が空いていたのだが・・・黒門亭の場合それはほんとに目の前、距離50センチくらいで強烈に噺家に近い。
あんまり近いと照れるので最前列はSさんに譲り、私はその影へ・・・。
今回菊之丞さんの出番は3番目。
出てきたとき、なんと目が真っ赤だったのには胆をつぶした。
まるでさっきまで寝ていたような顔だった。
こんな顔をみたのは初めてである。
しかしそれが、演じているうちにたちまち目も顔色も表情も、冴え渡っていく。特に目の色はあれよと言う間に輝きを増し、澄んだ色に変化。
さすがプロだねえ・・・。
(生理学的には、単に交感神経と副交感神経が交替しただけかもしれないが。)

確かに巧いけど、私にとってはどこかお堅い感じがしていたのが菊之丞落語であった。
ルックスのせいもあるのだろうが、「ホントに女遊びが楽しいと思っているのかなあ?」、「ほんとにそんなにお酒が好きなのかなあ?」等と感じさせてしまうところがある。
そうした噺を「頭」で演じているように見えて、小器用だけどスケールの小さい噺家になってしまうのでは・・・という危惧があった。
でも、案外大丈夫かも。
赤い目の菊之丞さんを見てそんなことを思った。
大人で、男で、ちょっと崩れた菊之丞落語に出会えることを今後期待したい。
この日の演目は「酢豆腐
変人の若旦那を演じるときの仕草が可笑しいながら美しく、印象に残った。