下丸子落語倶楽部

私にとって落語はお蕎麦に似ている。
ふと食べたくなって出かけ、ササッ注文してススッと食べ、あーおいしかったと満足して帰る。
お腹の中からもさらっと消えて、もたれない。
お蕎麦に関する薀蓄も特に聞きたくないし、店主と仲良くなりたいとも思わない。
ただおいしいお蕎麦が、食べたいときにサッと供されれば満足なのだ。
そういった意味でときどき、志らく師匠の芸や映画に関する意見めいたマクラが重く感じることがある。
お蕎麦を出す前に長々とその店のこだわりだの何だのに関して講釈されてるようで、「なんでもいいからはやく蕎麦を出せ!」というような気分になるときもあるんだよね。
こっちは観客。ツッコミ入れるわけにも行かないし・・・。
そんな気分になるときもあったので、今回の下丸子での家緑さんの存在には救われた。
四十男っぽくいろいろとお説教めいたことをならべる志らく師匠に対して、「ボク、ぜんぜんわかりません!」なんてニコニコと突っ込んでるのが気持ちよかった〜。
いや、志らく師匠が嫌いなわけではなくて・・・こだわりや意見を聞くのも楽しいんだけれども、やっぱり私の目的はお蕎麦なんです。
とかなんとか言いながら、蕎麦屋に行くと鴨南蛮ばっかり食べてる私は種蕎麦好き。

さて下丸子は私の家からは遠いのだが、今回は菊之丞さんがゲストなので頑張って出かけた。
太田区民プラザの小ホールは、体育館のようなところにパイプ椅子を並べた会場で高座に緞帳も無く、学芸会を思い出すような雰囲気。
そこに200人くらい入っていたように思う。
最初は志らく一門の前座バトルから始まる。
らく次さんがとっても良くなっててびっくりした。
声がちょっと細いので、アクションが大きい割には印象が弱いなあって思っていたんだけれども、しっかり太い声が出てたし客席をちゃんとつかんでやってた。
志ら乃さんが急に面白くなったと思ったらアッという間に二つ目になっちゃったのというのがあったので、これはもしかして急成長するやもしれぬ。

志らく師匠と花緑さんのトーク
柳家花緑という人を生で見たのは初めてだったけど、なんか溌剌とした元気な好青年って感じの人だなあ。
どこか文学青年チックな暗さがある志らく師匠と好対照で、いいバランスでした。
トークの後は志らく師匠のシネマ落語「長屋紳士録」
これ、映画の方見たいなあー。いい話。
子供がことさらに泣かせることを言わないのがまたヨイ。

抽選会の後、いよいよ菊之丞さんの登場。
京紫の着物に藤色の羽織。半襟は白と見紛う薄い緑。
ネタは「町内の若い衆」
菊之丞さんで聞くのは3回目なのだが、ぜんぜん飽きない。
それどころか先が見えるだけに「ああ、次はあの仕草が見られる」「もうすぐあのセリフを言うところが見られる」ってどきどきしながら見る楽しみがあるのですよ。
噺が終わった後おもむろに立ち上がったので何事?と思っていたらなんと!踊りを披露してくれました。
正座から立ち上がってすぐなのでちょっと固いところがあったように見えたけど、さすがにキマってたなあー。
菊之丞さんは今のところ、私にとって一番いいお蕎麦屋さんだ。
もしかして、多くの普段あまり落語を見ない年配者にとっても、そうかもしれない。
一般の人が芸人に期待するものを、彼は余すところ無く持っていて、さりげなく速やかにそれを見せてくれる。
何よりいいのはその姿に無理が無いこと。
あの小柄な色白の青年は、「古今亭菊之丞」として生きることを楽しんでいるように見えるのだ。

菊之丞さんの踊りのせいですっかり会場の雰囲気が格調高い感じになっちゃったので、トリで出てきた家緑さんは最初やりにくそうだった。
でもまったく違う個性であっというまに会場の雰囲気を変える。
芸人というよりタレントのような華やかさがある人だな。
ネタは「夢金」
声が大きくて活舌がいいので聞きやすい。
武士の声と船頭の声がぜんぜん違うのに感心した。
ちょっと所作が過剰な感じがしたんだけれど、まあ、菊之丞さんの後だったからかも。

「町内の若い衆」は男性にかなりウケていて、帰り道にその話をしながら歩いている男性二人組みを見かけた。
「いやー、なるほどねぇー、ハハハハ。町じゅうの若い奴らがみんなで・・・みんなで、アハハハ、。」
うーん、意味は同じだけどね・・・。