メルシー兄弟と従姉

待ちに待ってた第二回「メルシー兄弟と従姉」
ライブからはすでに1ヵ月が経とうとしていますが、私の頭の中のブルーレイディスクには幾多のシーンがはっきりくっきりと。
脳内再生ボタンを押しまして、ハイライトをお届けします。

<オープニング>
エマニエル夫人のテーマの替え歌「メルシー兄弟と従姉のテーマ」に乗って3人が登場。
向かって右に「メルシー兄」山田晃士、左に「メルシー従姉」柴草玲、そして真ん中に「メルシー弟」最鋭輝の布陣。
兄は赤いフリルのシャツにシルクハット、弟はGSっぽい真っ赤なミリタリージャケット、従姉は赤いチャイナドレスに妙に毛量の多いボブのウィッグにティアラをちょこんと乗せていた。チャイナドレスの模様はよく見るとパイナップル。
全員ばっちり厚化粧。
もう、いきなり濃い。どこか外国のキャバレーに来ちゃったみたいな錯覚をおぼえる。
最初にこの後の各自のソロライブの順番を画期的な方法「あみだくじ」で決めるとのこと。
メルシー一族の口からはすかさず「あみだくじのテーマ」(映画「男と女」のテーマの替え歌でただ「アミダバダ〜」っていうだけ。)
兄がかざした画用紙にはぞんざいな筆ペンの線が縦に3本。それぞれ上に「兄」「弟」「従姉」と書いてある。
そこに兄が横線を入れていくのだが、その数が多い。多すぎる。めちゃくちゃである。
そして一本追加の線を依頼された従姉はルール無視のとんでもないくねくね線を描き殴った。
扱いかねた兄は「従姉、この線は・・・無視します。」と×で消してしまった。
何やかやで順番は「弟」「従姉」「兄」と決まった。

<最鋭輝>
トップバッターは最鋭輝。一人GS、一人ウエスタンカーニバル。なのに妙に腰の低い喋りとモッキースマイル。
先般の「渦」でごらんになった方も多いであろう。
ステージ前には必ず「親衛隊」の方が紙テープを配ってくれるので、テープの端を少しだけ解いて指に挟み、いつでもステージに投げられるように準備する。
あとはモッキーの声にあわせて投げるべし。これがお作法。
テープを投げると、いきなりステージが近くなったように感じられて楽しいことうけあい。
私の前の席に盛り上がっていないカップルが座っていたのだが、テープを投げた次の瞬間から彼氏の方が小さく手拍子をし始めた。
それまではちょっと引いて見ている感じがあったのに。恐るべし、紙テーププレイ。一気に客席に一体感が生まれる。
「今夜は僕の物になれ」という曲のサビでは驚愕のメルシーダンサーズ・・・いきなり袖から兄と従姉が飛び出してきてダ〜ンス!
キメの振り付けでは、客席もみんな一緒にメルシーダンサーズ。
この日のモッキーのギターには、手作りのミラーボールがぶら下がっていました。
さて、たいていの対バンライブなら一番濃い人になるはずのこのモッキーが、一番まともに見えてしまうのがメルシーな夜の恐ろしさ。
ライブはまだまだ序の口なのであった。

柴草玲
ピアノをアンニュイに鳴らしながら低血圧ボイスで登場。
まずは別れた男が置いていったバッテリー液がなかなか捨てられないという歌をブルースっぽく吐き捨て。
次の曲「大人の遠足」は集団公然わいせつで古い知り合いが捕まったという実話から。
その人との思い出とそこから派生する話題を思いつくままに、ありったけの毒を込めてガンガンとシャウト。
リアルな独白と感情そのもののようなピアノの音が出会って「うた」が生まれる瞬間に、観客は何度も立ち会うこととなる。
観たことが無い人には「ダークな矢野顕子」といえば想像しやすいだろうか。
そして「さげまんのタンゴ」では、アコーディオン抱えて仁王立ちになるなり、ツアー中に生理になった話を神妙な表情でぶっちゃけた。
一瞬引いた雰囲気になった客席に「ごめんなさいね。いやでしょう?こんな話されて。」と表情も変えずにポツリ。
このときの空気がなんとも、説明の仕様がないのがもどかしいのだが、とっても可笑しくも可愛かった。
「別れた男が自分より幸せになるのは許せないー!」と絶叫、「あげまん」「さげまん」のコール&レスポンス。
こうして書いてみると大変「痛い」女性のようなのだが、実際観ているとそういう感じはしない。
ものすごいことを言ったり歌ったりしているのに、不思議と生臭さがないのだ。
汚れてもやさぐれてもふてくされても、根底に「乙女心」が見え隠れ。
そのせいか、どんなに下品な発言をしても薄汚くならない。
それにしてもメルシー従姉だけ観た人には誤解されそうだが、この人はほんとうはとても美しい歌を紡ぐステキな歌い手さんなのです。
そっちもぜひ体験していただきたい。

<山田晃士>
嵐のようなメルシー従姉のステージから一転、「ラムール」のムーディなギターであっという間に自分の世界に引き込むメルシー兄。
口では「ムカつくようなモッキーのいい人っぷり、すがすがしいまでの従姉の暗黒っぷりの後で大変にやりにくい」と言いながらも楽しそう。。
いつもはステージの隅々まで神経を行き届かせているバンドマスター気質な彼が、この日はわりと他のメンバーに委ねてちょっと力を抜いている。
そんな素敵なユルさを見られるのもメルシーライブの醍醐味。
ピアノ弾き語りで面妖な一人芝居入りの「ともだちのうた」シャウト、ささやき、変幻自在の声が頼もしい。
ラストの「サ・セ・ラムール」は「なんでこんな曲作っちゃったんだろう?」と本人もわからないという明るいノーテンキなラブソングで行進曲。
この人の曲はけっこうバカっぽいラブソングも多いんだが、案外本人の恋愛観とは関係無くて、単に「愛の讃歌」みたいなコンセプトの曲を自分なりにいろいろ作ってみているのかも。
暗黒さ加減は従姉、柴草玲さんととても似ているのだけど、暗黒を腹の中から取り出してまな板の上にさらし、捌いて調理して料理にするまでをステージで見せてしまうオープンキッチンなメルシー従姉に対し、メルシー兄は暗黒を素材としていろんな角度から吟味し、奥の厨房で作り上げて完成品を出してくるシェフな感じ。
柴草玲は「ドキュメント」、山田晃士は「ドラマ」。
対象に肉迫する柴草玲、対象を俯瞰する山田晃士。
根本は似たもの同志のような気がするのだが、表現へのアプローチがぜんぜん違うのが面白い。

<セッションタイム>
3名によるセッションタイムは全員ウクレレを持って登場。
「メルシー兄弟と従姉のテーマ」でメルシーツアーの思い出をそれぞれ順番にアドリブで弾き語り。
兄と従姉にはさまれて、どっちから突っ込みがとんでくるかわからず、終始おどおどしていたモッキーが可愛い。
ツアー中にできたポエム「毛穴」を従姉がリーディングし、両脇から兄と弟がウクレレで「毛穴、穴〜、広がるばかりさ〜・・」と「ケセラセラ」のメロディでハモる。
途中から思いついたように「YO!YO!」とヒップホップ的合いの手を入れ始める従姉。
「すばらしいラップでしたね。」と言う弟、「メルシーなのにぜんぜんフランスじゃない!」と怒る兄。
もう何がなんだかわかりません。
楽器をギター、ピアノに変えてカバーを何曲か・・・・リリィの「私は泣いています」、ジュリー「勝手にしやがれ」で一度ひっこみ、そのままの振り付けで出てきて、アンコールはちあきなおみの「そっとおやすみ」で昭和の歌心満載。

この3人が一つの舞台で見られるのは一年に一度。また来年。
できればもっと見たいけど「親族なんてそんなもんでしょう。」とはメルシー兄のクールなお言葉。
いまから来年が待ちどおしい私です。
来年まで頑張って生きていよう。このライブが心置きなく観られる程度のお金は稼いでいよう。

さて、名曲(迷曲?)「サ・セ・ラムール」だが、先日実家に帰った際、シャンソンのコンピCDを聴いていたら偶然元ネタを発見。
ミスタンゲットの「サ・セ・パリ」ですね。